はじめよう、これからの暮らしと社会 KOKOCARA

食と暮らし、持続可能な社会を考える、
生協パルシステムの情報メディア

写真=「マムズ・アクロス・アメリカ」ホームページより ©Moms Across America

遺伝子組換え食品から子どもを守る! 全米各地で動き出したママたち

  • 食と農

アメリカではオーガニック市場が毎年3割増の勢いで伸びている。その背景の一つにあるのが、遺伝子組換え食品に対する消費者の不信感の高まりだ。市民団体「マムズ・アクロス・アメリカ」は、全米各地の母親たちをつなぎ、遺伝子組換え食品にNOを唱えるムーブメントをつくり出してきた。2017年3月に来日した創立者のゼン・ハニーカットさんは、「遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン」主催の学習会で、日本の母親たちにも行動を呼びかけた。

アレルギー反応で生死をさまよった息子

――ゼン・ハニーカットさんは、3人の男の子の母親。自身は食べ物によるアレルギーと無縁で育ったのに、息子たち全員に何らかのアレルギーがあると分かったときは、とてもショックだったという。

ゼン 息子の一人は、感謝祭のディナーに入っていたピーカン(クルミの一種)が原因でアレルギー反応を起こし、生死をさまよったことがあります。アメリカでは毎年多くの子どもたちが食物アレルギーで亡くなっています。子どもの3人に一人が肥満、12人に一人が食物アレルギー、20人に一人が発作性疾患を持っているなど、大変心配な現実を示す統計もあり、こうしたことが新しい常識となりつつあります。

 私はこんなことがあってはならないと思い、一生懸命調査を始めました。私の子どもたちの疾患の原因を調べ、食品業界を変える運動をしていくなかで、世界中の優秀な科学者や医師、農家の方々とも出会いました。

 そこで分かってきたのは、アメリカ人は世界で最も多くの遺伝子組換え食品を消費していること。遺伝子組換え作物と一緒に使われる農薬も摂取しているということ。そして、最悪の健康状態にあるということです。

2017年3月の来日講演で日本の母親たちに呼びかけるゼンさん

――ゼンさんによれば、アメリカの加工食品のうち、なんと85%に何らかの遺伝子組換え原料が使われているという。

ゼン 遺伝子組換え作物は主に3種類に分けられます。一つは殺虫毒素を持つ細菌(Bt)の遺伝子が組み込まれ、作物そのものが殺虫成分を持っているものです。こうして害虫抵抗性を組み込まれた「Btコーン」は、アメリカでは農薬として登録されています。

 二つ目は、除草剤耐性を持ったもの。畑に除草剤をまくと、周囲の雑草は枯れても、作物のほうは遺伝子が組み換えられているので枯れずに残ります。

 三つ目は、望むような形質を持たせるために、特定の遺伝子を起こしたり、あるいは眠らせたりしたものです。こうした操作をすると、本来発現すべきでない遺伝子を起こしてしまったり、本来は機能しなければいけない遺伝子を眠らせてしまいかねないという遺伝学者もいます。こうして作られた食べ物を子どもが食べたとき、何が起きるのかはわかっていません。

母親たちが地元でできる運動を

――ゼンさんは、食卓を担っている多くのお母さんたちに、少しでも早く遺伝子組換え食品の問題を知らせるにはどうしたらいいか考えた。

ゼン お母さんたちが無理なく地元でできる運動を考えました。7月4日の独立記念日に、各地で開催されるたくさんのパレードに参加すれば、1日で地域の数千人、アメリカ全土で数百万人の人に私たちの主張を知らせることができます。そこで2013年に、44州で172のグループがそれぞれの地元のパレードに参加しました。フェイスブックには1週間で30万人近くの訪問があり、いろいろな体験談も寄せられるようになりました。

母親たちによるパレードはアメリカ全土に広がった

――全米各地で反対運動のうねりが起こり、2014年にはバーモント州で、全米初となる遺伝子組換え食品の表示義務化法が成立した。その後、2016年7月には合衆国連邦議会で、遺伝子組換え食品表示義務化法(通称、GMO表示義務法)が成立。しかしこの法律によって、先に成立した州法は無効化されたうえ、大きな抜け穴ができてしまった。

ゼン 商品のパッケージには、問い合わせ先にアクセスするための電話番号、ウェブサイト、QRコードなどしか載せなくてよいので、今でもアメリカ人の多くの人は、多くの商品に遺伝子組換え原料が使われていることを知りません。私たちの運動はある意味で成功したものの、「表示を求める」という運動に注力したがために、表示以下のものしか得られませんでした。日本のみなさんには、ぜひ「遺伝子組換え食品の禁止」を求めてほしいと思います。

日本には食品の遺伝子組換え表示制度があるが、表示されない遺伝子組換え原料が多くある

腸の善玉菌を殺してしまうグリホサート

――遺伝子組換え作物の80%は、除草剤耐性のものが占める。多くの場合、栽培時に一緒に使われるのが、遺伝子組換え大手企業が製造する、グリホサートを主成分とする除草剤だ。

ゼン アメリカでは、遺伝子組換えでなくても小麦や大豆の収穫時に乾燥を早めるためにグリホサートが使われています。また、抗菌剤としても登録されており、腸の中の善玉菌を殺し、サルモネラ菌や大腸菌といった悪い菌が増殖するといわれます。その結果、善玉菌が生成しているセロトニン(インシュリンを抑制、感情をコントロール)や、メラトニン(不足すると睡眠障害を起こす)など重要なホルモンが不足するといった指摘もあります。

 グリホサートの懸念はそれだけではありません。摂取した栄養素を固定して不活性化してしまうので、体内に必要な栄養素を取り込めなくなるほか、発がんとの因果関係が指摘されています。米国の環境保護局(EPA)の資料でも、内分泌のかく乱を引き起こし、生殖に直接かかわる影響もあるとされているのです。

「害虫や雑草との闘いのために、子どもたちの健康が脅かされています」と話すゼンさん

市民の手で、グリホサートの残留検査を実施

――遺伝子組換え食品を食べないようにした結果、ゼンさんの息子のアレルギーは指数にして19から0.2と軽くなり、医師からは、もう生死をさまようような危険はないと言われている。マムズ・アクロス・アメリカにも同様の経験談が寄せられる。しかし、遺伝子組換え推進派は科学的証拠がないと主張する。そこで、ゼンさんたちは証拠を集めることにした。

ゼン 私たちは、市民による初のグリホサートの検査を行いました。2番目の息子の尿からは、1リットル中に8.7μgという値が出ました。これは、ヨーロッパで環境保護団体が行った同様の検査の最大値1.82μgの4倍以上の数字です。私は非常に怒りを覚えました。遺伝子組換えをやめて約1年がたっていたのに、なぜこんな数値が検知されるのかと。分かったのは、グルテンにアレルギーがあるほかの息子たちと違い、この子だけが小麦を食べていたということです。小麦は、遺伝子組換えでなくても、有機でない限りグリホサートが使われているのです(※)。

※現在、遺伝子組換え小麦の商業栽培は認可されていません。

全米各地から、尿や母乳に含まれるグリホサートの検査に協力する母親たちが現れた

 ちょうどこのころ、この子は体調が悪く、病院を受診したところ、腸内に炎症を起こす真菌が検出され、また、19種もの食品に過敏症であると分かりました。真菌を抑える治療を受けながら、とにかく有機の食品を選び、グリホサートを徹底的に除去する食生活に変えました。さらに腸の善玉菌を増やすために発酵食品をとるようにしました。その結果、6週間後にもう1回検査をしたら、グリホサートは不検出になっていました。

 私たちの検査では、がんの子どもの栄養補給剤や、子ども用ワクチンの検体5本すべてからグリホサートが検出されました。恐らく遺伝子組換えの飼料を食べた動物を原料としたゼラチンでワクチンを培養しているからではないかと思われます。ところが、アメリカ食品医薬品局(FDE)やアメリカ疾病管理予防センター(CDC)などは、全くこのことを取り上げていません。

「有機の食品は高いといわれますが、健康被害や遺伝子組換えに使われている税金などのことを考えれば、本当はとても安いのではないかと思います」(ゼンさん)

私たちの手で未来は変えられる

――マムズ・アクロス・アメリカは、情報公開法を使って、遺伝子組換え大手企業によるグリホサートの安全評価資料を入手。ホワイトシュリンプ(クルマエビの一種)は、グリホサートの含有濃度が5.2ppmを超える環境だと4日間で死亡するという記述があった。しかし、アメリカでは砂糖の原料になる甜菜には25ppmのグリホサートの残留が許可されている。また他の研究では、濃い塩水の中でも、グリホサートが325日間活性を続けるということが分かっている。

ゼン 胎児の最初の大きさはエビぐらいです。そして羊水は濃い塩水です。妊婦たちが毒性にさらされていると疑わざるをえません。とにかく食生活を有機に切り替えることで、状況は変えられるのではないでしょうか。有機食品を買うだけで、私たちの健康、未来、国の未来も変えることができます。地元の農家を守り、豊かで健康な大地を取り戻すこともできるはずです。

 どうぞ日本のみなさんも、自分の国が有機の国になるかもしれないと想像してみてください。まずは仲間を見つけ、有機のものを食べようと誓いを立てることです。一人のお母さんが10人の友達と一緒に映画を観て、その10人が10人に、その10人が10人にと広げていけば、1000人以上の人が、このことを知ることになります。

全米各地で行われたアピール行動には、母親だけでなく、多くの父親たちも参加した(写真=「マムズ・アクロス・アメリカ」ホームページより ©Moms Across America)

 誰にも何かを成し遂げる、前に進んで行く力があることを、私は母から教わりました。みなさんも、誰もがかけがえのない存在であり、一緒になれば何かできるのではないかと思ってほしいです。私たちは絶対にあきらめません。なぜなら、子どもへの愛は絶対に終わらないからです。

※本記事は、2017年3月9日に東京ウィメンズプラザで開催されたワークショップ「アメリカでがんばるママがやってくる!子どもたちの食べものを変えよう」を基に構成しました。

取材協力/遺伝子組み換えいらない!キャンペーン 取材・文/山木美恵子 構成/編集部