段ボールからレタスを取り出す二人の女性

たとえ一緒に食卓を囲めなくても、寄り添い、つながる。コロナ禍で考える子ども食堂と学習支援のこれから

  • 暮らしと社会

新型コロナウイルスが終息の兆しを見せない。おしゃべりしながら、みんなで食事を楽しむ。そんな当たり前のことがむずかしくなったなか、子ども食堂などの支援の現場は、どんな課題を抱え、どうやって困難を乗り切ってきたのか。生活協同組合パルシステム埼玉の予備青果が定期的に提供されている「埼玉県子ども食堂ネットワーク」と「一般社団法人 彩の国子ども・若者支援ネットワーク」、それぞれの現場を訪問した。

頼り合える地域を目ざして

 「みんなの食堂 ぽっかぽか」(埼玉県蕨市)は、埼玉県子ども食堂ネットワークに参加している135(2020年10月現在)の食堂のひとつ。代表の新妻朋子さんは、地域のつながりの大切さや「お互いさま」の心を伝えたいと、蕨市でプレーパーク(※1)活動を続けてきた方だ。その活動のなかで見えてきたのは、地域とのつながりを作りにくいお母さんや子どもたちの存在だった。そこで、プレーパークの仲間に声をかけ、5年前に有志でこの場を立ち上げた。

 「たとえば、子どもが熱を出したときに『仕事に行かなきゃいけないので、助けて』と言えるような関係があれば、お母さんたちも楽に生きていけるのではと思ったんです。そのためには地域で人とつながれる場所が必要なんだなって。慌ただしい平日の夜に、私たちが代わりにご飯を作れば、お母さんたちは食堂で地域の人と何気ない会話ができます。時間はかかりますが、そうやって信頼関係を作り、ちょっとした悩みを話したり、頼ったりできるようになっていってほしいと思って」

スタッフの女性2人と男性1人

左からスタッフの村上さん、新妻さん、新妻さんの息子さん(集合写真撮影時だけマスクを外していただきました)

 その願い通り、ぽっかぽかは、大人も子どもも含めて毎回50名ほどが賑やかに集う夕方の居場所になった。それが今年2月末から従来の形での開催ができなくなったまま、今に至っている。でも、活動をストップしているわけではない。

 今年9月半ばの月曜日に開かれた「ぽっかぽかプチパントリー」の会場。寄付で集まった食品のなかには、パルシステム埼玉からその日引き取ったばかりの新鮮な野菜や果物もある。午後4時ごろからスタッフ3名で対象世帯(この日は14世帯)ごとに仕分けし、パッキングしていく。5時半ぐらいから7時までの間に、お母さんたちが立ち寄って、パックされた食品を受け取っていく仕組みだ。

段ボールに入ったシャインマスカットとりんご

「わっ!シャインマスカット」と、思わず歓声が

 ぽっかぽかでは、フードパントリーの配布対象を、シングル家庭で大学生までの子どもがいる人限定の登録制にしている。配布できる食品の量が限られているなかで、より困っている人に届くようにと決めたのだ。配布は4月から始まり、月に2~3回。登録世帯は、これまで子ども食堂に親子で通ってきた方たちとは全く違う顔ぶれになった。

 「登録された方のなかには、完全に仕事を失った方もいました。また、法律上はシングルではないけれど、DVを受けて避難中の方の問い合わせもあり、『ぜひ、どうぞ』とお受けしました。『お野菜が高くて買えないんです。なのに、こんなにたくさんいただいて』と、皆さんに喜んでいただいています」(新妻さん)

※1:「冒険遊び場」と呼ばれ、手作りの道具があり、穴掘りや水遊び、廃材でモノ作りをしたりできる。「自分の責任で自由に遊ぶ」というモットーが掲げられている。

「再開したら手伝いたい」の声も

 新妻さんは、「コロナがあることは決していいとは思いませんけれど」と前置きし、しみじみとこう言う。

 「この機会に見直さなければと考えたこともたくさんありましたし、つながりがすごく大事なんだと改めて思いました。パントリーに来ているお母さんたちが、『つながれて本当にありがたい』と思ってくれたことは大きいですね。子ども食堂の存在自体を知らなかった方は多く、再開したら手伝いたい、参加したいと言ってくださっている方もいます。

 飲食店からの食材の寄付があったり、寄付金の振込が増えたりもしました。以前から子ども食堂のことは知っていて『なにか自分も力になりたい』と思っていた方にとって、いいタイミングになったのではないでしょうか」

コンテナに入った数々の野菜

パルシステム埼玉の蕨本部に準備された予備青果

 新妻さんたちの今の気がかりは、子どもだけでぽっかぽかに来ていた子たちのことだ。「やっとつながりができて、準備を手伝ってくれたり、片付けの時間ごろまで残っていて、私たちと雑談したりするようになっていました。食堂を開けなくなって、最初は食材を渡していたのですが、おうちで料理を作ってもらえず余ってしまうというので、そのまま食べられるキュウリとかプチトマトとかだけ渡したりしていたんです」

 その子たちのためにも、また、つながりが途絶えたままのママたちに少しでもほっとしてもらうためにも、「せめてお弁当が配れれば」と、新妻さんたちは計画中だ。

 プレーパークも6月から再開している。「マスクは着けて、熱がないか確認して、あとはゆるめに遊んで発散して帰っていく感じです」

 当たり前だったことを、一つひとつ取り戻しながら、あきらめずに動いている現場は、その名の通り、“ぽっかぽか”だった。

レタスを手にする新妻さん

近隣企業から寄付された新鮮なレタスも

小学生に格差を背負わせないために

 今年9月末のある日の夕方、「一般社団法人 彩の国子ども・若者支援ネットワーク」が運営する「ジュニア・アスポート学習支援 富士見教室」(埼玉県富士見市 ※2)を訪ねた。この日の参加児童は10人ほど。対象学年は小学3~6年生ですが、低学年の兄弟が一緒に来ているケースもある。

 5時からの「始めの会」のあとの30分~1時間ほどが各自の学習時間。宿題をしたり、復習・予習をしたり。勉強を終えて夕食までの時間は「体験活動」となっていて、この日のテーマは「公園で遊ぼう」。支援員やボランティアさんと元気に外に飛び出していく子どもの姿があった。

 アスポート学習支援事業は、困窮世帯で育った子どもが大人になって再び困窮状態に陥りやすいという貧困の連鎖を断ち切るために立ち上げられている。

 ジュニア・アスポートに先立って実施されてきた中学・高校生対象の学習支援の現場で見えてきたのは、小学生の段階でつまずいている子どもたちが多いということだった。「そこで生まれた格差はなかなか埋まらないというデータも出ています」と、埼玉県社会福祉課の関根なつきさんは言う。

 「学習支援だけでなく、何時に何をするといった生活のリズムを作ることも大切です。経済的に困難な家庭は、食も乏しくなりがちなので、みんなと一緒に食事をすることで食文化も学び取ってもらいたいと、この事業を組み立てました」

 開催は週3回、子どもたちが安全に参加できるように送迎も。この送迎があることで、親が助かるだけでなく、支援員と家庭との信頼関係が築きやすいというメリットもある。

 学習支援の形態はマンツーマンと聞き、その手厚さに驚いた。同事業運営本部の山浦健二さんは、そのねらいをこう話す。「もともと中学・高校の教室もマンツーマンなんです。勉強時間を自分のために共有してくれる大人がいることを子どもたちに感じ取ってもらうことが大事なんです。自分が大事にされているという安心感ですよね」

スタッフの女性2人と男性3人

山浦さん(左から2人目)と支援員の皆さん(左から井筒さん、山口さん、石川さん、小澤さん)(集合写真撮影時だけマスクを外していただきました)

 3月から5月はお休みだったが、今は定員をしぼり、各テーブルの間に仕切りを置き、さまざまな感染対策をしながら開催している。「本来なら年度が替わり新しいお子さんたちもたくさん迎えるはずでしたが、それができないでいます」と関根さんは残念そうに語る。

 学校休業中に出された膨大な宿題をどうするかという課題にも直面した。「支援員がご家庭にうかがって一緒に宿題をやったり、食料をお届けしたこともありました」(山浦さん)

※2:アスポート=「明日へのサポート」+「明日への港(ポート)」の二つの意味を持たせた造語。子どもたちが生まれ育った環境によって将来が左右されることなく、希望を持って明日への船出ができるようにサポートしていこうと、埼玉県が全国に先駆けて始めた事業です。

食事は最大のお楽しみ

 6時半からは待ちに待った夕食タイム。手を洗った子どもたちは、自分の食べられるだけの量を器に盛ってテーブルへ。取材チームもご相伴にあずかった。

 「今日は、パルシステムさんから提供していただいた野菜をふんだんに使っています」と支援員の山口君子さん。確かに、野菜たっぷりメニューだ。

お盆に載った食事の品々

メニューは、肉じゃが、かぼちゃサラダ、サツマイモのきんとん、味噌汁、リンゴ

 山口さんは、以前パルシステム埼玉に宛てたお礼の手紙に、こんな言葉を綴ってくれている。

…食事は子どもたちにとって毎回授業終了後の最大の楽しみになっています。(中略)食事の回数を重ねてゆく事で、極端な偏食が大きく改善したり、好き嫌いが無くなったり、食べられる品数が増えたりと、変化を目の当たりにして改めて食の大切さを思い知らされ感慨深いです。

袋に入った野菜の数々

パルシステム埼玉から届いた食材

 「生活体験」の一環として、支援員が子どもたちと買い物に行き、一緒に料理をすることもある。先日は、子どもたちが「今日は魚が食べたい」と、山口さんにリクエスト。素直に自分の希望を話せる関係が育っている。

 アスポート学習支援事業全体では大学生のボランティアが3分の2以上を占めているが、ジュニア・アスポートの場合は、社会人ボランティアが活躍できる場が多いとのこと。「勉強ではなく、生活体験として竹トンボとか手芸とかを教えてくださる形でもいいんです」(関根さん)

 食事を終え、終わりの会で席に着いた子どもたちに、支援員の方が「何か話したい人は?」と問いかける。「お味噌汁がおいしかったです!」の声に、記者も「私もです!」と思わず言いそうに。食材提供をしている現場だけでなく、生産者の皆さんにも届けたくなる声だった。

調理場で料理の準備をする2人の女性

調理スタッフ2名で、この日は25人分の食事作り

取材協力=埼玉県子ども食堂ネットワーク、みんなの食堂 ぽっかぽっか、一般社団法人 彩の国子ども・若者支援ネットワーク、ジュニア・アスポート学習支援 富士見教室 取材・文・写真=山木美恵子 構成=編集部