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炊きたてのごはん

写真=坂本博和

令和の米騒動に学びたい、お米と食卓の未来のこと。「かかりつけ農家」と出会い、支え合おう

  • 食と農
2024年から2025年にかけて大きな混乱を招き、今もその余波が残る「令和の米騒動」。米の品薄状態は落ち着いたものの、私たちの暮らしに欠くことのできない米の生産や流通に、実は多くの課題が累積していることが露呈した。「あのとき明らかになった日本の食糧生産の課題は、いまだ解決していない」と話すのは、近畿大学名誉教授の池上甲一さん。農業社会経済学者から見た「令和の米騒動」とは? そして日本の米を安心して育て、食べ続けられる未来のために私たちにできることは?

あれは「騒動」と呼べるものだったのか

――いつでも当たり前に手に入ると思っていた日本人の主食・米が店頭から消え、価格が高騰。「令和の米騒動」は私たちの日常に大きな影響を与えました。農業社会経済学を専門とする池上さんは、今回の事象をどのようにお感じになりましたか。

池上甲一(以下、池上) 「令和の米騒動」を考えるとき、私がまず一番に危惧するのが、「そもそもあれは『米騒動』と言ってよいものだったのか」ということです。

米の流通量不足に端を発した社会的混乱であることから、過去になぞらえて「米騒動」の名を借りているものの、これまでのものほどの意味や変革をもたらすものにはなりきれていないのではないでしょうか。

例えば「大正の米騒動」といえば、1918年、富山県の女性団体から始まった抗議行動です。政府に米を求める抗議は数日のうちに全国に波及し、時の寺内正毅内閣が総辞職に追い込まれる要因となりました。

また1946年には、深刻な食糧難が常態化していた敗戦後の東京で、4月ごろからバケツを片手に住民が区役所に集まり、米を求める運動が自然発生的に生まれました。この大きなエネルギーが高まり、519日、皇居前広場に25万人が集まる大集会「食糧メーデー」につながっていきます。

「騒動」には本来目的があり、社会構造を変えたいという人々の意志があったのです。

近畿大学名誉教授の池上甲一さん

近畿大学名誉教授の池上甲一さん(写真=編集部)

いっぽう、今回の場合はどうでしょうか。

SNSなどでは、米不足や米の価格高騰を憂う声が投稿されましたが、それ以上の大きな社会運動にまで成熟することはありませんでした。マスコミの報道も、いつの間にか価格問題にのみ論点が矮小化され、価格を高騰させた「犯人探し」を加速させるばかりでした。

米は、国の安全保障に関わる政策的食糧です。にもかかわらず、国民の「飢えずに食べ続ける権利」を脅かすような失策について、反省も議論も十分になされないまま、次のシーズン(米穀年度)を迎えようとしています。

そもそも生産量と需要量がギリギリの状態だった

――確かに、つい「米が棚から消えた」「米価が上がった」という現象にのみ目を向けてしまいがちかもしれません。今回の事態は、どのようなことが原因だったのでしょう。

池上 私は、「ずっとあふれそうだったコップの水が、最後のひと押しで一気にあふれた」のが、今回のできごとだったと思っています。

日ごろはあまり意識されませんが、そもそも日本の米は、国による厳しい生産調整によって生産量が決められています。そして実は22年、23年産も、生産量が年間需要量よりも少なく、民間在庫量注釈も減少――つまり米不足が起きていました。これは、農水省がまとめているデータを見ても明らかです。

米の生産量と年間需要量のグラフ

主食用米の民間在庫量の適正規模は180~200万トンとされるが、政府は2026年3月時点、6月末の在庫量は適正水準を大きく上回る215~229万トンと見通している。グラフは編集部が作成(出典:農林水産省「米穀の需給及び価格の安定に関する基本指針」各年次、玄米ベース)

このような、量に余裕を持たない生産調整が続く中で、

1.夏場の高温の影響による「未登熟米」の増加(一等米比率の低下)
2.ふるさと納税やインバウンドによる米需要の増加
3.南海トラフなど地震・災害不安による家計購入量の増加

といった要素が重なり、いよいよ「米が足りない!」という事態が露呈したのです。

「騒動のその後」の対策は? おこめ券では農業を支えられない

――もともと生産量が需要ギリギリの量に抑えられていた中で、予測外の需要が重なり引き起こされたのが、今回の米不足だったということですね。

池上 はい。しかも、「予測外の需要」といっても、その量が特別多かったわけではありません。インバウンドによる増加量はわずか約3万トン。ふるさと納税や災害への備えとして買い足された分も、何十万トンにのぼるわけではありませんから。

人は食べなければ生きていくことができないにもかかわらず、この程度の流通減や需要増で破綻してしまうような国の生産調整は、果たして正しかったと言えるのでしょうか。

もちろん、私たち食べ手の米離れによる需要の減少や、人口そのものの減少によって、米の市場規模が多少の振れ幅を受け止められないくらいにまで縮小してしまっている、という重要な課題もあります。

全体のパイが小さくなった分、扱う数に厳密性を求められるようになり、以前よりも生産調整のバランスの見極めが難しくなっているのです。

また、生産に対して需要が大きく下回れば、価格下落が懸念されるだけでなく、国が財政負担をしなければなりません。官僚の中でも、まず「米余り」を警戒する方針が慣例のようになっているのでしょう。

しかし、こうして起きた米不足への対策が「価格の見直し」と「なし崩し的な備蓄米の運用」だけでよかったのか。政府が「騒動」を重く受け止め、再発を防ぐべく抜本的な方向転換を考えているとは思えません。

稲穂

米価の高騰に、生産者からも「これでは食べ続けてもらえなくなる」と不安の声が上がっていた(写真=豊島正直)

多くの人がすでに伝えているとおり「これまでの米価が安すぎた」というのはまぎれもない事実です。しかし、その歪みを市場価格にそのまま反映させた結果、低所得者、子ども食堂・フードバンク、介護施設、給食施設などが、毎日不安なく食べる、食べさせる権利を脅かされています。

「米価は新米がとれれば落ち着く」、などとも言われていましたが、不足分を先の収穫で補ったとしても、課題を先送りするだけで価格が落ち着くことはありませんでした。

やはり、もっと米を安心して生産し、食べられる仕組みそのものが必要なのではないでしょうか。

しかし、米問題への対策は、いつの間にか「国民へのおこめ券の配布」の方向に進んでいます。これが国産米に限るということであれば、多少なりとも日本の米農家を下支えする効果があったかもしれませんが、単に「おこめ券」では、カリフォルニア米でもよいとなってしまう。これが実施されたとしても、日本の農業全体の現状は変わりません。

このまま日本の米生産力が脆弱化すれば、日本人の主食はいつの間にか、穀物メジャーと呼ばれる多国籍企業に牛耳られてしまい、国ですら主食の価格をコントロールできなくなってしまう――、そんな悪夢のシナリオさえ見えてきてしまいます。

深刻な担い手不足。「大規模化」「効率化」だけが正解か?

――生産調整を受けず、もう少し余裕を持った米生産ができていれば、高温の影響や需要増にも応えられたのでしょうか。

池上 もちろんそうなのですが、実現への課題は多いと感じます。

ひとつは、担い手不足の深刻化です。食の多様化と人口減少に伴い、米需要の減少傾向は長年続いてきました。そして米価が下落し、政府からは減反ばかり指示され、「米は育てても儲からない、むしろ赤字になる」ことが日本の農業の常識のようになっているのが現状です。

作り手の稲作離れは非常に深刻であり、これ以上担い手人口も農地も減少すれば、日本人が食べていくだけの米を生産する力が失われてしまうかもしれません。

お米とパンと麺

食の多様化によって、米の一人当たりの年間消費量は、50年前と比較すると4割以上減少している(農林水産省「食料需給表」各年次より)(写真=PIXTA)

そしてもうひとつは、農家の所得を支える米価の問題です。今のインフレ経済の流れにならって米価を上げたとして、果たして日本全体がそれを受け止められるだけの懐事情にあるでしょうか。

日本の実質賃金は非常に低く、5%程度の賃上げが2年連続で続いたものの2022年以降のインフレをカバーするには至っていません。米問題は実は、私たちの賃金の問題ともつながっているのです。

――海外の事例にならい、日本でも大規模化によって稲作を効率化することで担い手不足解消と米価の安定化を目指そうとする動きもあるようですね。

池上 今、注目を集めている新たな栽培方法として「節水型乾田直播(かんでんちょくは)」などがありますね。水を張らない乾田に直接種もみをまき、必要最低限の灌水で稲を育てるという方法です。

条件が整えば、労働時間を大幅に削減できるだけでなく、コスト削減を実現し、高温への耐性も高まることが期待されています。もちろん、こうしたイノベーションはこれからも研究・実験され、実装されていくべきだと考えます。

しかし、例えば節水型乾田直播による稲作が適しているのは、今のところ東北や北海道など広大な平野を持つ環境のみ。これがすぐに全国的な課題に対する抜本的解決策となるかというと難しいでしょう。

節水型乾田直播

「節水型乾田直播」は、畑の状態の土に播種し、水の散布のみで栽培する(写真=PIXTA)

そもそも、経済の原則にのっとった「省力化」、つまり時間も人も削減することは無条件で是とされがちですが、一概にそう言えるでしょうか。

米は田んぼ1枚の中だけで完結するものではなく、農道や、山や川から引く水路などの維持もあって成り立つもの。食生産の要となる農地を未来へとつないでいくためには、その地域を支えるだけの人が暮らす「農村」を保つこともまた大切なのです。

私自身は、大規模農業の発展と同時に、地域では中小農業が元気に活躍するような、さまざまな規模の農業がモザイク柄のように広がる地域農業や地域社会のありかたが大切だと考えています。

多様な関係人口が農業、農村を支えていく

――「令和の米騒動」を教訓とし未来につなげていくために、社会として、そして私たちにできることは何でしょうか。

池上 世界が混乱を極める時代に、人々が生き抜く要となる「米」を守っていくために、国としてすべきことと、私たち市民ができること、この2つがあると考えています。

国としては、「米生産の安定化=稲作所得の保障」につながる仕組みを早急に導入し、担い手減少に歯止めをかけることが重要です。

例えば新規就農を希望する人が安心して参画できるよう、単に「就農=補助金」ではなく、栽培面積に合わせた「直接支払い制度」と、米価が下がったときの価格を補う「不足払い制度」注釈を組み合わせるなどした所得保障の仕組み作りが考えられます。

米不足が私たちの暮らしに与える影響の大きさを実感した今こそ、国民の理解とともに、日本の米と水田を守る政治を意志を持って進めることを願います。

棚田の風景

稲作を守るということは、田んぼを起点に広がる地域や文化、生物多様性をも守るということだ(写真=坂本博和)

市民である私たちの選択としては、農家と消費者が直接結びつく仕組みへの参加があります。産地と生活協同組合の連携や、そこからさらに一歩進んだ、消費者が1年などの単位で生産者と契約し、代金を前払いするCSA(地域支援型農業)注釈も、安定生産と持続可能な経営に寄与するものとなりえます。

こうした買い物のありかたを個人が選択したり、そういった取引方法を選択している販売先を多くの人が利用することは、日本の農業支援につながるだけでなく、世論の表明としても有効だと思います。いわゆる「かかりつけ農家」を持つということですよね。

――生協パルシステムが30年以上実施している「予約登録米」の制度は、CSAの一つと言えますね。米が不足した昨年も、予約登録した組合員へは、予定通り供給することができました。

池上 まさにCSAだと思います。そして最後に、これからは作り手と食べ手の垣根をなくしていく、ということを考えていくのはどうでしょう。

未来学者アルビン・トフラー注釈は、1980年代にすでにプロデューサー(生産者)とコンシューマー(消費者)を組み合わせた「プロシューマー」という造語を提唱しています。

現在、この概念は農業以外の分野で用いられることが多いのですが、実は農業にこそプロシューマーは適しているのではないかと私は考えています。

産地ツアーのようす

JA新潟かがやき(新潟県)で行われた産地ツアーのようす。作り手と食べ手が顔見知りになるということは、双方にとって豊かなことだ(写真=深澤慎平)

「ふるさと住民登録制度」注釈をはじめとする、関係人口や二地域居住の制度化が国主体で進んでいます。地方の農業団体で継続的に農作業を行ったり、大都市圏であっても市民農園を拡大・有効活用することも大切な一歩です。

何より、生産に関わることで、米は1年に1度(多くても2度)しか収穫できないという確かな実感を得られたり、おいしい米を育てるまでの苦労や喜びについて、深く理解することができます。

これから全国で田植えのシーズンが始まります。行楽に出かける道中などで、田起こしや代(しろ)かきといった田植えの光景を、実は目にしているかもしれません。

1粒の米から苗が育ち、豊かに米が実っていく、その過程に少しでも目を向け、関心を寄せていく。そしてあと1杯、みんなでごはん食を増やし、米需要の規模を広げていく。そんな日々のささやかな変化が、今の私たちにとって大切なのではないでしょうか。

脚注

  1. 各年6月末に玄米の取り扱い数量が年間500トン以上の届出事業者の在庫量に、水稲を作付けした生産者の在庫量推計値を加えたもの。なお、令和7年6月末の民間在庫量には、売り渡した政府備蓄米の在庫量(12万玄米トン)を含む。

  2. 「直接支払い制度」は、農家の所得を補償するために国が直接補助金を支払う施策。日本では、2000年以降に直接支払いの政策が増え農家の収入を支えたが、経営改善や新技術導入などのモチベーションを低下させるとの見方があり、2018年に終了した。
    「不足払い制度」は、市場価格が下がったときの差額を政府が補填する仕組み。アメリカでは1996年に一度廃止されたものの、2002年に実質的に復活し、現在も運用されている。

  3. CSA(Community Supported Agriculture)とは、生産者と消費者が連携し、直接契約で前払いを行い、農産物を定期購入することで支え合う仕組みのこと。日本では「地域支援型農業」とも呼ばれる。アメリカやヨーロッパでは、CSAに関する支援組織が存在しているため、日本と比較して普及が進んでいる。

  4. アメリカの評論家、作家、未来学者、社会学者。1928~2016年。情報化社会の到来を予言した著書『第三の波』の中で、生産と消費とを一体化する新しいタイプの生活者として「プロシューマー」という概念を提唱している。

  5. 住所地以外の地域に継続的に関わる人に、第2の住民票を付与する制度。都市と地方の交流を促し、関係人口の可視化を行うことで、地域の活性化や担い手不足の解消を目指すねらいがある。2025年6月、政府が制度の創設を正式に表明し、本格始動に向けて準備が進められている。(「ふるさと住民登録制度」の創設について(総務省)

取材・文=玉木美企子 写真=坂本博和、豊島正直、深澤慎平、編集部 構成=編集部