始めるなら、自分の暮らしに合ったコンポスト
――西川さんがオーナーを務める「コンポストフレンズ」は、コンポストの専門店という珍しいお店ですね。
西川美和子(以下、西川) そうなんです。容器のサイズ感や生ごみを入れたあとのようす、実際のにおいなど、ネットで見ただけではよくわからないですし、自分に合ったコンポストを気軽に探せる場所があればいいなと思っていました。実際、埼玉や茨城など、遠くから来てくださるお客さんもいるんですよ。

店内に並ぶ、大小さまざまなコンポスト(写真=平野愛)
――暮らしにコンポストを取り入れる方や、興味がある方が増えてきていると感じます。初めての人は置き場所やにおいなど、ハードルを感じる部分もあると思うのですが、実際はどうなのでしょうか。
西川 私はコロナ禍で家にいる時間が増えたのをきっかけにコンポストを始めたんですが、最初はバケツ型の「ぼかしコンポスト」をやってみたんです。ホームセンターに行くと必ず売っているコンポストで、生ごみと米ぬかを重ねてお漬物みたいに発酵させていくという。
でも、かさは減らないものだから、家族4人のわが家ではバケツがすぐいっぱいになります。そしたら庭に穴を掘って埋めて、さらにバケツの下についている蛇口から出る液肥を容器に移し替えて1000倍くらいに薄めて使って……。
それがもう重労働で。発酵のにおいもかなりあるし、ちょっと大変だなと思って。それで次はバッグ型コンポストをやってみました。こちらはやっぱりすごくよく考えられていて、場所をとらないですし、堆肥は出るのですが断然手軽でした。

バッグ型のAgriPoucher®コンポスト(写真=平野愛)
そんななか、ネットで「キエーロ」というものを知りまして、あ、よさそうじゃないかと思い、自分で容器をDIYしてやり始めました。これ、生ごみが消えて本当にラクチンなんですよ。
私は、容器を置ける場所があって堆肥が不要という方にはキエーロ、堆肥が欲しい方には、バッグ型をおすすめしています。
生ごみが消えるってどういうこと?
――「生ごみが消える」キエーロとは、どんな方法なのでしょうか?
西川 キエーロは、シンプルな構造で簡単なコンポストです。箱を用意して、庭や畑の土、プランターの使い古しの土や黒土など身の回りにある土を入れて(※粘土や砂は不可)、生ごみと土を混ぜながら埋めていきます。
箱は、太陽の光を通す透明なふたをつけ、サイドに風を通す隙間を空けてあげてください。木箱やプランターなどを使って、自分で手作りする方も多いんですよ。
その名のとおり魔法みたいに生ごみが消えちゃうので、やった人はみんなびっくりされます。後から土を足す必要もなく、ランニングコストもかかりません。
キエーロ自体は、神奈川県葉山町にお住まいの松本信夫さんという方が、1990年代に発見して考案されたものです。「キエーロ」という名前がついたのは10年以上後のことだそうですが、SNSの影響もあって広まってきたように思います。

りんご箱を再利用したキエーロの容器。これで40リットルの土が入るサイズ(写真=平野愛)
――どういう仕組みで、生ごみが消えるのですか?
西川 微生物が土の中で、生ごみを二酸化炭素や水などに分解してくれるんです。それらは空気中に放出され、土に残るのは、増えたように見えないくらいの微量の栄養分と、とても分解が遅い有機物だけ。なので見た目は消えながらも、土にはどんどん養分が蓄えられています。
ほかのタイプのコンポストは、分解されて土になる前段階の状態(堆肥)を作っています。それを土に入れることで、作物の栽培に役立ち、最後は分解されて土になる。ゴールはおんなじです。

生ごみを分解した後のキエーロの土は、養分たっぷりでふかふか。そのままガーデニングにも使える(写真=平野愛)
キエーロに生ごみを入れてみよう
――スペースや堆肥の有無によって、自分に合ったコンポストを選べるのはうれしいですね。
西川 そうですよね。ちょっと、実際にキエーロに生ごみを入れてみましょうか。
私はキッチンにストッカーを置いていて、ここに野菜くずなどの生ごみを数日分ためています。小さく切ると分解しやすいので、料理のついでにザクザク切って、どんどん入れていきます。

便利なふた付きのストッカー。飲食店などでも使われている深型のキッチンポットは、ふたが引っかけられて、コンポストユーザーの間で人気だそう(写真=平野愛)
――生ごみはどれくらいの量を入れられるのでしょうか?
西川 入れられる生ごみの量としては、土100リットル当たり、夏で1日500グラムくらい。冬はその半分ですね。土の量に比例して入れられる量も増減します。
分解するのに、気温が高い夏は3日前後、冬は7~10日ほどかかるので、埋める場所をずらしながら、少し分解する時間をとってあげるとよいです。

土を区画分けし、生ごみを埋める場所をローテーションしていくと分解がスムーズに(写真=平野愛)
ここは5日前に埋めたところ。卵の殻や根菜類の皮みたいなもの以外はほとんど分解されていますね。
分解されにくいものもありますが、入れておけばいつかはなくなります。

人参の皮などは分解がゆっくりめ。ほかの生ごみはすっかり消えて見当たらない(写真=平野愛)
穴を掘ったら生ごみを入れて、水をけっこうたっぷり入れるのがコツです。土が生ごみによく付着しますし、水分によって微生物の働きも活発になります。
土が乾いた状態だと分解がなかなか進まないので、しっとりしているくらいの感じにしてあげてください。

土が湿っていると微生物も元気に。汁けのある残り物も投入OK(写真=平野愛)
微生物を活発にするコツは? においや虫は?
――ほかにも、分解がうまくいくコツはありますか?
西川 白いカビや、土の中にコロコロしたかたまりができていたら、分解が順調に進んでいる証拠です。
また、キエーロの中にいる微生物は、においを出さないで分解してくれる「好気性微生物」で、活動するのに酸素を大量に必要とします。そのため分解するときに、ネバネバした液を出して土のかたまりを作り、土中にすき間を作る「団粒化(だんりゅうか)」を行います。
自然界では、ミミズなどの生きものがかたまりを耕す役割をしているのですが、キエーロでは人間が生ごみを埋めるついでにほぐして、空気をさらに通してあげてください。
通気がない状態だと、酸素を必要としない「嫌気性微生物」が増えてしまいます。そういう微生物は分解のときににおいのあるガスを出すため、なるべく酸素を送り込んであげることも、においを防ぐコツです。

もみ殻を土に混ぜておくと、通気性が高まり微生物を活性化させる(写真=平野愛)
――やはりコンポストで気になることは、「におい」と「虫」ですよね。
西川 においや虫の原因になるのが、生ごみを入れすぎたときに発生する分解残りなんです。人間も食べすぎるとおなかを壊してしまいますよね。
私も最初、消えるのがうれしくてどんどん入れてしまったんですけど、箱の中が分解されない生ごみでいっぱいになってしまって。
でも、そうなってしまっても失敗じゃないですよ。1回生ごみを入れるのをお休みしてもらえば1~2週間で消えるので、そうすればまた始められます。
入れすぎにさえ気をつければ、「キエーロはにおいがしないし、虫の心配もほとんどありません!」と自信を持ってお伝えしています。
もう一ついいところは、ほったらかしても大丈夫なところ。キエーロはしばらく何も入れずにいても、微生物の数は減りますが生きてはいるので、また生ごみを入れたらボワーッと増えてくれます。暮らしに合わせて、すごくフレキシブルにできるのがいいんです。

キエーロが分解しやすいもの、しにくいもの。料理や油もOK(図=編集部作成)
――「私にもできるかも」と思う方が増えそうです。西川さんご自身、コンポストを始めたことで、暮らしにどんな変化がありましたか。
西川 やっぱり生ごみが出なくなるというのは大きいです。始めてからは、2週間に1回程度、すごく軽いごみ袋を収集に出すだけになりました。
それに、生ごみは「ごみ」じゃないんだということに気がつくんですよね。微生物といっしょに暮らして、食べ物をあげている感覚です。人間からしたら、もういらなくなった物なんですが、微生物たちは喜んでくれて。土に入れた物がなくなっていると、「よく頑張ってくれたな~」と(笑)。

自治体でキエーロを推進しているところも。助成金がある地域もあるのでぜひ一度チェックを(写真=平野愛)
「定年を迎えたら、コンポスト屋さんをやろう」
――コンポストにハマった西川さんが、「お店をやろう」という決意にまで至ったのはどんな経緯があったのでしょうか?
西川 もともと、定年になったら、元気なうちに何か別のことをやりたいとずっと考えていたんです。それまではNHKで40年近く、環境をテーマにした番組制作の仕事をしていました。
私が子どものころ、日本でちょうど公害の問題が広がっていて、環境への関心は昔から持っていて。母に「石けん洗剤を使おう」なんて言う子どもでしたね(笑)。

国内外のロケに飛び回るなど、忙しい日々を過ごされてきた西川さん。「取材される側になるのは不思議な感じです」と照れ笑い(写真=平野愛)
定年も近くなった数年前のある日、「土の中に炭素を吸収させて、大気中のCO₂の量を減らす」という話を、アメリカのゲイブ・ブラウンさんという農家の方の本で読みました。「えっ、そんなこと今まで知らなかった。最後にこれをやろう」と。それで作ったのが、カーボンファーミング(土壌に炭素を吸収させる環境再生型農業)をテーマにした番組だったんです。
それを機に、自分の家でもカーボンファーミングができないかなと。それならコンポストがいいなと思って始めたんですよね。

当時、日本ではまだ出版されていなかったゲイブ・ブラウン氏の『Dirt to Soil(原題)』。西川さんが企画を持ち込み、邦訳版『土を育てる』の出版が実現した(写真=平野愛)
――「ごみを減らしたい」という理由ではなく、「カーボンファーミング」を実践したいという理由でコンポストを始めた、というのが西川さんらしいですね。
西川 そういう側面もあるというのも知ってもらえるとうれしいですね。
それでもっと本格的にやろうと、キエーロ考案者の松本さんが中心になって開催しているイベントに参加したり、「キエーロオフィシャル」という、キエーロを普及させる会の運営メンバーとして活動しているうちに定年退職になり……。「じゃあ私はコンポスト屋さんをやります」と、起業をすることにしました。
思い出のある団地で新しいチャレンジを
――起業というのも、まったく新しい挑戦だったのではないでしょうか。
西川 私もずっとテレビの仕事をしてきて、ビジネスのことは何もわかりませんでした。なので、「TOKYO創業ステーション」という東京都の無料の起業支援施設に通いながら、事業計画書を書き上げて。
そのときに「東京シニアビジネスグランプリ」という55歳以上の人がエントリーできるビジネスコンテストを知りまして、参加したところ……。なんとびっくり、最優秀賞と、ネットの投票で決まるオーディエンス賞というのをダブルで頂くことができました。

受賞時のトロフィー(※「新村」はご本名)(写真=平野愛)
私の小さなお店のプランがどうして、という感じだったのですが、社会的にも、環境問題やSDGsの視点が求められていたのかもしれません。
コンポスト専門店なんてだれも聞いたことがないビジネス、妄想で終わるんじゃないかと思っていました。でも2つも賞を頂けたことで、「ありなのかもしれないな」と背中を押してもらえましたね。

お子さんがかつて通った保育園や小学校が近く、よく利用していた団地の商店街の一角にオープン。寂れかけた商店街のシャッターを上げたい気持ちもあったそう(写真=平野愛)
定年まで働いて、その後何か小さなビジネスをやるってすごくいいなと私は思うんです。小さくても何か新しいサービスや商品を提供すると、必ずそれを喜んでくださる方がいて、新しいつながりが生まれる。
それに、この年齢になって初めて、簿記を勉強したり、電動工具を使ってキエーロの容器を作ったりしている自分が信じられないですね。新しい体験ばかりで、とても面白いです。

コンポストの注文が入ったら、りんご箱に手作業でふたなどを取り付け。手作り感あふれる温かみのあるコンポストができ上がる(写真=平野愛)

長年りんご運搬に使われてきた木箱をアップサイクル。木材は、高知県からヒノキを取り寄せている(写真=平野愛)
――これからお店をどんな場所にしていきたいですか。
西川 今、キエーロの講座と容器を作るワークショップを組み合わせた教室を、月に何回か開催しています。隙間をふさぐ板や、ふたの色を選んでもらえるようにしているので、みなさん楽しんでくださっています。
今後は、さらに色やデザインのラインナップを増やして、いっしょに暮らしたくなるコンポストを見つけていただけるようにしていきたいです。
コンポストに関心がある人の背中をちょっと押してあげられる、一歩踏み出してもらえる。そんな場所になれたらうれしいなと思います。