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イラスト=naoya

男性の育休で、あらゆる人の幸福度が上がる? みんなが一人で頑張らないための「お互いさま」の増やし方

  • 暮らしと社会
3月8日は「国際女性デー」。日本のジェンダーギャップ指数が148カ国中118位と低迷を続けている中、状況を打開するカギのひとつだといわれているのが「男性育休」だ。男性の育休取得率向上は「あらゆる人の幸福度を上げる」と話す天野妙さんは、自身もワンオペで3人の子どもを育ててきた経験から、「育休の制度を変えたい」とさまざまな取り組みを行ってきた。男性の育休取得が進むことによってもたらされる好影響とは?

出産・育児をするなかで感じた違和感

――天野さんご自身も3人のお子さんがいらっしゃいますが、当時、天野さんのパートナーは育休を取られたのでしょうか?

天野妙(以下、天野) 1人目を出産した2008年は、「男性が育休を取る」という発想自体が世の中にほとんどありませんでした。2人目を出産した2012年もまだまだ。3人目を産んだ2016年は私が起業した直後だったこともあり、経済的な不安から育休は取れませんでした。

今思えば、夫が育休を取ったとしても想像を超えるような悪影響はなかったはずなのですが、当時は育児休業給付金のことすら知りませんでしたし、「男性が育休を取るのは非現実的」という空気が、夫の会社にも色濃くありました。

天野妙さん

平日はほぼワンオペで3人の子どもを育ててきたという天野妙さん(写真=疋田千里)

でも、3人目が生まれたとき、すでに2人の娘で両手がふさがっていた私は3人目の世話を夫に任せることが多かったんです。そうしたら、彼女は我が家で初めて「パパがいい!」と言う子に育ったんですよ。

そんなこともあってか、結婚当初はお湯を沸かすことしかできない夫でしたが、次第に家事や育児をするようになりました。もし1人目のときに夫が育休を取っていたら、もっと早くこうした関係性になっていたのではないか。そして私も会社員としてのキャリアをあきらめることはなかったのではないか……と今でも少しだけ恨み節が出てしまいます(笑)。

今なら制度も整っていますし、もし4人目が生まれるなら「今度は1年取ってね」と夫に言うと思います。

――パートナーが育休を取らなかったことがキャリアの壁になったのですね。

天野 1人目の育休から復帰したところ、給料は3分の1になり、やりがいのある仕事からは外されました。いわゆるマミートラック(出産や育児をきっかけに、本人の意志に反して重要なキャリアコースから外されること)です。

その後転職した先では、3人目の妊娠をきっかけに辞職に追い込まれました。心身ともに限界までがんばっても、「女性だから」という理由で道を閉ざされる。その違和感が、のちに男性の育休取得率アップを目指す活動につながっていったのだと思います。

天野妙さん

天野さんは育休に関する法改正の実現に向け、男性育休義務化プロジェクトチームとして提言を行った(写真=疋田千里)

――社会全体の価値観も大きく変わりつつあります。男性育休の受け止められ方も変化していると感じますか?

天野 地域差はありますが、街の空気は確実に変わりましたよね。今は平日の昼間に、公園でパパと子どもが2人で遊んでいる風景も日常になりました。会社でも「男なのに育休を取るのか?」といった声は、ほとんど聞かれなくなりました。

経営層の男性の中には、孫が生まれて初めて「なぜ自分は、わが子のかわいい時期を何もせず過ごしてしまったんだろう」と後悔する方も。

また、若い世代は、男性が育休を取れない会社を選びませんし、入社したとしてもすぐに辞めてしまうのではないでしょうか。彼らは一定の収入があれば、その先は「自分自身のウェルビーイングを高められるかどうか」など、お金ではない価値を重視しているようです。

人手不足の時代、若手から選ばれない企業は苦境に立たされてしまいます。そのため制度の整備を進める企業が増えてきていますが、本質的な変革はまだまだこれからだと感じています。

公園にいる赤ちゃん

男性が昼間に街や公園にいると怪しまれてしまう「平日昼間問題」も課題のひとつだった(写真=PIXTA)

「取るだけ育休」から進化中

――かつては、育休本来の目的を果たせていない「取るだけ育休」が課題でした。最近では、「手探り育休」に移り変わりつつあると言われています。

天野 少し前までは、取得率を上げるために、会社側のリクエストに応じて男性が育休取るケースがありました。そのため、男性も何をしたらいいのかわからず、育休を取ったけどソファーでゴロゴロしていたり、ゴルフに行って不在だったりと、育休中なのに育児に関わらない「取るだけ育休」と揶揄されていました。

ところが最近は、主体的に育児に関わりたいと考えて育休を取る方が増えています。2025年に積水ハウスが実施した、男性の育休について調査したアンケート注釈では、「子どもの成長をそばで見守りたいから」が取得目的の1位でした。

そういう気持ちがあるからこそ、「自分には何ができるだろう?」と自然に考えるようになり、「手探り育休」に変わってきているのだと思います。

家事や育児に関して、男性に主体性を発揮してもらうために何より大事なのは、夫婦間でしっかり対話をすることではないでしょうか。

「そもそも、育休を取りたいのか」「取るなら何日くらいか」「育休中に何をしたいのか」などを話し合うことで、夫婦にとっての子育ての軸が見えてきます。

対話の結果、「育休は取らない」という結論でも、それはそれでいいと思いますし、育休という形にこだわらず、育児に関わっていけばいいですよね。

夫婦と子ども

家族の数だけ、育児の形がある(写真=PIXTA)

――男性側の意識が大きく変わりつつあるいっぽう、女性側の「家事や育児は自分がやらなければ」という意識はまだ強いのではないでしょうか。

天野 私もかつてはそうでしたが、家事・育児については、「夫に任せるのに罪悪感がある」という女性も少なくありません。夫側の意識変革と同様に、妻側も「女性がやるべき」という固定観念を手放していく必要があるのかもしれません。

最近は「男女問わず、将来性が高いほうが仕事に注力して世帯収入アップを目指そう」と考える人も増えています。

先日、妻より長い1年間の育休を取った男性にその理由を聞いたら、「自分よりも妻の方がビジネスマンとして優秀で、出世する可能性も高い。だから妻の育休を縮めて、僕が1年間育休を取るのは投資なんです」と話してくれました。

なるほど!と膝を打ちました。「男性だから、女性だから」ではなく、同じお財布で長い人生を生きていくパートナーとして話し合った結果なのだろうなと思い、とても素敵だと感じました。

個人・家庭・会社にもたらすメリット

――男性が育休を取ることで、「家族の絆が深まった」という声も多く聞かれます。

天野 夫婦で子育てをするというのは、ひとつのプロジェクトに一緒に取り組むということ。

例えば妻が「保育園から発熱の連絡あり! この後大事な会議があるんだけど、対応できる?」と夫にパスを出せば、夫は「会議をオンラインに変更した。15時にお迎えに行ける。保育園に連絡しておくよ」と返す。こんなふうに連携する関係ができるんですよね。

子どもと一緒に過ごす時間も増えますし、お互いの仕事や生活の悩みも共有しやすくなり、フラットな関係性の中で夫婦の絆も少しずつ深まっていくと思います。

それは女性の産後うつの予防にもつながりますし、子どもは両親の姿を通して、パートナーの存在や家族関係にポジティブなイメージを抱いてくれるようにもなるのではないでしょうか。

私の友人の中には、夫婦で育休を取ったことで時間に余裕ができ、副業を始めて軌道に乗ったケースや、育休をきっかけに海外移住を決めたケースも。育休は生き方の幅も広げてくれることもあるんだなと感じます。

育児をする男性

「育児で世界が変わった」という声もたくさん聞こえてくる(写真=PIXTA)

――そもそも日本では、社会に出ると、長期休暇を取る機会をなかなか得られない人も多くいます。育休のような経験は、本人にもよい影響をもたらすのではないでしょうか?

天野 企業に勤めていると、職場を離れて価値観をスイッチさせる機会がほとんどないのではないかと思います。長期の育休を取ることは、自分の中の多様性を高める絶好の機会になるのではないでしょうか。

最近は「キャリアブレイク」や「サバティカル休暇」注釈などといって、数カ月〜1年ほどの休暇制度を導入する企業が出てきました。

子どもの有無にかかわらず、自身をアップデートし、視野を広げていくことは、休みなく働き続けてきた人にとってすごく大切なことだと思うんです。企業にとっても、そうした人材が戻ってきてくれるのはいいことですよね。

社内で「お互いさま」が生まれる仕組みを

――男性の育休取得がさらに浸透していくために、職場ではどんな工夫が必要でしょうか。

天野 取得が広がる一方で、「同僚が育休を取ったことで、周りの人は大変だった」という声も聞こえてきます。企業側の制度設計や体制づくりの課題が大きいのではないかと思います。

実際、「職場に迷惑をかけるのではないか」と不安を感じ、育休取得をためらう男性も少なくありません。

最近では、育休中の社員の業務をカバーした人に、ボーナスを支給する企業も増えてきました。とてもよい取り組みだと思う一方で、「お金よりも休む権利が欲しい」という気持ちをもつ方もいるはずです。

そのためにも、先ほどお話しした「キャリアブレイク」のような休暇制度がカギになるではと感じています。「育休中は留守にしますが、よろしくお願いします」「私は来年3カ月のキャリアブレイクを取るから、そのときはよろしくね」なんて言い合えれば、職場の中で“お互いさま”という感覚が自然と生まれるのではないでしょうか。

私たちは誰でも、介護や病気などで職場を離れる可能性があります。それをふまえた仕組みが整っていけば、仕事を属人化しすぎることもなくなるはずです。

会社員

ブランクや評価など、復帰後の仕事に対する不安を感じる声も多い(写真=PIXTA)

男性の育休は社会の幸福度を上げる“ツボ”

――2024年度の日本の男性育休取得率は40.5%注釈と、ここ数年で大きく伸びました。

天野 本当に変わりましたよね。2021年6月の「育児・介護休業法」改正注釈は、大きな転機だったと思います。

この法改正には私自身も関わらせていただきましたが、ここまで変化が進むとは、正直驚いています。平日の昼間に赤ちゃんを連れて歩いている男性を見かけると、「育休中かなあ」と、ついニヤニヤしてしまいます(笑)。

ですが、男性育休の促進は、子どもがいる家庭だけの話にはとどまりません。女性のキャリア形成にも、働き方改革にも、少子化対策にも、じわじわと影響していくはずです。

すぐに劇的な変化が起こるわけではなくても、少しずつ社会の幸福度を底上げしていく力があると感じています。押すと全身に効く、“ツボ”のようなものかもしれないですね。

アップデートした社会を次世代に

――男性育休の取得率を上げることで、社会全体がいい方向に変わっていきますね。

天野 そうですね。2024年5月には、「育児・介護休業法」がさらに改正されました注釈。法律もどんどん進化しています。制度が変わることで人の意識も変わり、さらに仕組みが整っていきます。

そんなふうに、私たちが少しアップデートした社会を次世代に手渡し、次の世代がさらにアップデートしていく。その繰り返しを続けていきたいですよね。

そのためにも、子育てを一人で抱え込まず、“お互いさま”で地域、社会を巻き込んでいくことが大事なのではないでしょうか。

我が家は夫の実家が遠く、私の親は施設に入っているので頼ることができません。なので何か夫婦で対応しきれないことが起きたら、近所の友人にヘルプを求めます。

以前、自分が入院して、夫も動けなかったときには、パパ友が子どもたちの学童のお弁当を作ってくれたこともありました。本当にありがたかったです。

もちろん、申し訳ない気持ちもありますが、恩返しはいつかできるときにすればいいと思っています。だって、自分が頼らないと、相手も頼ってくれないですものね。

天野妙さん

「今の自分の選択が、後輩たちの道を拓いてあげることになる」と天野さん(写真=疋田千里)

そして、自分の中の「当たり前」を疑ってみること。「男性だから」「女性だから」といった前提を少しゆるめて、多様な生き方や価値観を認めていくこと。「社会は自分たちの手で変えられる」と信じることも、大切なことだと思っています。

2025年秋に『女性の休日』というアイスランドの映画注釈が公開されました。1975年にアイスランドの9割の女性たちが「今日一日、家事も仕事もしない」と立ち上がったストライキを振り返ったドキュメンタリーです。

アイスランドは現在、16年連続でジェンダーギャップ指数1位をキープしていますが、このときの女性たちの強い意志が、社会を動かしたんです。

私自身、かつては政治への強い関心があったわけではなく、自分が法改正に関わるなんて20年前には想像もしていませんでした。でも、そんな一市民でも法律を変える一端を担うことができました。

「私たちは微力だけど無力じゃない」。私の好きな言葉です。一人ひとりができることを積み重ねていけば、きっと社会は少しずつよい方向へ進んでいくと思っています。

脚注

  1. 積水ハウス株式会社「男性育休白書2025」。

  2. 「キャリアブレイク」は「自分の意志で積極的に働くことを中断し、人生や社会を見つめ直す期間」と定義され、療養や介護、学び直し、旅行などによって得た新しい視点やスキルを、その後のキャリアに生かすことを目的とする。

    「サバティカル休暇」は一定期間勤務した従業員に対して長期休暇を与える企業の制度を指す。近年、日本でも導入する企業が出てきている。

  3. 厚生労働省「令和6年度雇用均等基本調査」結果より。

  4. 2021年6月に改正された「育児・介護休業法」では、男性の育休取得推進に重きが置かれ、産後パパ育休制度の創設や、育休の分割取得、雇用環境の整備、個別周知・意向確認の措置の義務化、企業の育休取得状況公表義務化などが盛り込まれた。

  5. 2024年5月に改正された「育児・介護休業法」では、子の看護休暇の見直し、所定外労働の制限(残業免除)の対象拡大、テレワーク導入の努力義務化、育休取得状況の公表義務適用拡大などが盛り込まれた。

  6. 女性の休日』(監督:パメラ・ホーガン/2024年/アイスランド・アメリカ)
    1975年10月24日、アイスランド全女性の90%が仕事も家事も一斉に休み世界を変えた、運命の一日のドキュメンタリー。日本では2025年に公開。

取材・文=棚澤明子 イラスト=naoya 写真=疋田千里 構成=編集部