都庁下の歩道で配付する食品を袋に詰めるボランティアの人々

写真=深澤慎平

コロナ禍で急増したSOS。仕事や住まいを失った人たちを支援につなぐ「新宿ごはんプラス」の現場から

  • 暮らしと社会

新型コロナウイルスの感染拡大は、さまざまな業種に経済的影響を及ぼしている。とりわけ非正規雇用など不安定な労働形態にある人たちの状況は深刻だ。東京都新宿区の都庁下で月2回、生活困窮者への食事提供や相談会を行ってきた「新宿ごはんプラス」にも、3月ごろから仕事や住まいを失い、助けを求める人の数が増えていったという。支援の現場から見えてきたこと、そして活動をボランティアで支える人たちの思いを聞いた。

4月以降、食料品を求める列の長さは2倍以上に

 7月末の土曜日、午後1時を過ぎると、東京都庁の真下にある路上に人が集まり始めていた。

 ボランティアのスタッフが食料品やマスクなどを袋に詰めて用意している間にも、列はどんどん伸びていく。百数十人は並んでいるだろうか。

都庁下の歩道に集まる人々

写真=深澤慎平

 2014年7月に有志の団体や個人が集まって活動を始めた「新宿ごはんプラス」は、毎月2回、生活に困窮した人へ無料の食事提供と生活・医療相談会を行ってきた。しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響で利用者数が急増したため、4月からは緊急対応として活動を拡大。現在は毎週土曜日に開催している。

 「これまでは、毎回70人ほどが来ていました。それも長期にわたって路上生活をされているかたが中心で、ほとんどが顔なじみのような人ばかり。でも、コロナによる経済的な影響が広がると、新しい人たちがどんどん来るようになりました。3月末には約120人になり、4月以降は150~180人という状態が続いています」

 そう話すのは、「新宿ごはんプラス」の共同代表であり、生活困窮者支援を行う認定NPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」の理事長も務める大西連さんだ。

メガホンを持って話しかける大西さんとスタッフ

集まったボランティアに作業予定を説明する大西さん(左)とスタッフ(写真=深澤慎平)

 4月に国の緊急事態宣言を受けて東京都がネットカフェに休業要請をしたときには、それまでネットカフェで寝泊まりしていた人たちが行き場を失って相談に来たという。都内には、ネットカフェに寝泊まりする人が約4000人もいると推計されている。

 「食料品を受け取るだけでなく、生活相談を希望する人の数がすごく増えました。わたしたちは一人一人の状況をお聞きして公的支援の情報を伝え、申請のサポートなどもしています。そうやって毎週のように支援につなげているのですが、新しい人たちがどんどん来る状況なので、人数はなかなか減りません」と大西さん。

「相談会スタッフ」と書かれた腕章をつけたスタッフ

腕章を着けたスタッフが生活相談を受け付ける(写真=深澤慎平)

「普通の暮らし」から困窮状態へ

 「新宿ごはんプラス」は土曜日の開催のため、公的支援の申請をするには窓口が開く月曜日まで待たなければならない。すでに所持金がなく、泊まる所もない場合には、週末の宿泊費と連絡用のテレホンカードを渡すこともあるという。携帯電話の料金が払えなくなり、連絡手段を持たない人も多いからだ。

 午後2時からの食料品配付を終えると、聞き取り用の記入シートを手にした相談員と一対一で話をする人たちの姿があちこちにあった。30代、40代くらいの男性もいれば、数は少ないが女性の姿もある。

クリップボードに留めた記入シート

写真=深澤慎平

 大西さんが、コロナ禍の中で最も印象的だったのは、生活困窮の相談に来るのは圧倒的に非正規雇用の人ばかりだということだ。

 「フリーランスや業務委託、派遣社員、日雇いなど非正規雇用で働いていた人がほとんどです。ネットカフェなどに寝泊まりしていた人もいますが、コロナの前までは月20万円くらいの収入があって、決して困窮していたわけではなかった人たちも、仕事の激減や失業といった影響を受けています」

歩道に集められた食品を順番に袋に詰めていくスタッフ

一人一人に手渡す食料品をボランティアスタッフが袋に詰めていく(写真=深澤慎平)

 2008年にリーマンショックが起きたときは、主に製造業で働く人たちが「派遣切り」に遭い、「年越し派遣村」ができるなど大きな社会問題にもなった。しかし、今回はあらゆる世代が影響を受けており、相談に来る人の業種も、観光、イベント、接客、教育、飲食、製造……など多岐にわたっていると大西さんは話す。

 「企業も雇用を守る努力をしていると思うのですが、同じ会社でも正社員が優先されるので、非正規雇用の人から解雇されていく。より立場の弱い人たちから先に、押し出されるように困窮しています。生活保護の申請件数だけでなく、社会福祉協議会の貸付金への申請件数も増えているので、ギリギリの状態にある人はすごく多いのだろうと思います。いつ経済が回復するのか、先が見えない不安にも追い詰められています」

「合同相談会」と書かれた看板

写真=深澤慎平

 コロナ禍の中で、大西さんたちは活動方法にも苦慮している。スタッフは全員マスクを着用するのはもちろん、テーブルやいすなどの消毒を徹底し、相談の際にも適切な距離を空けるなど、医師の指示を仰ぎながら感染対策にできる限りの注意を払う。

 「どれだけ気をつけても、長期で路上生活をしているかたの中には、高齢者や基礎疾患がある人が多いので心配です。しかし、毎週のように支援を必要とする人が百何十人と並ぶような状態では、活動をやめるわけにもいきません。本当はわたしたち民間がやらなくてもいいように、行政の支援が困っている人たちにしっかりと行き届いてほしいのですが……」

「路上脱出生活SOSガイド」と書かれたパンフレット

生活に困ったときのためのガイドブックも配付している(写真=深澤慎平)

地域課題の解決に取り組む生協として

 この「新宿ごはんプラス」の特徴は、生活困窮者支援や労働相談を行うNPOなどのさまざまな団体、医師や弁護士などの専門職、学生や一般市民などの個人がボランティアで集まって、協力し合いながら運営していることだ。一人一人に手渡しているお弁当やパン、青果や飲料なども、企業や生協、フードバンクなどからの寄付に支えられている。

かごに積まれたバナナ

パルシステムから提供されたバナナ(写真=深澤慎平)

 こうした協力団体の一つに、パルシステム生活協同組合連合会がある。

 この日、現場の手伝いに来ていた常任理事の藤田順子さんは、パルシステムで社会課題解決に取り組む地域活動委員会の委員長も務めている。

 「パルシステムでは『共生の社会づくり』を理念の一つに掲げて、食を中心にしながら地域課題の解決に取り組んできました。最近では、困窮する若者への奨学金支援、住まいの支援なども行っています。『ステイホーム』といわれていますが、そのホームがない人もいる。コロナの影響で、いつだれが困窮するのか分からない状況だからこそ、“食のパルシステム“としてできることをしたいと考えています」と藤田さん。

インタビューに答える藤田順子さん

パルシステム生活協同組合連合会常任理事の藤田順子さん(写真=深澤慎平)

 実は、「新宿ごはんプラス」には、設立当初からパルシステム職員や関連会社の社員など数人が個人としてボランティアで活動にかかわっている。しかし、今回の切迫した状況を受けて人手や物資が不足していることから、4月からはパルシステムが組織としての協力を決め、職員派遣や食料品提供などを行ってきた。

ワゴン車から荷物を降ろすボランティアスタッフ

写真=深澤慎平

 パルシステムの配送を担っている株式会社ロジカルの常務取締役・久保裕介さんも、「新宿ごはんプラス」設立当初からボランティアを続けてきた一人だ。主に車での食料品やテーブル類などの運搬を担当し、ほぼ毎回欠かさず活動に参加している。

 「6年前、この活動に参加し始めたころは、正直に言うと生活困窮者に対して『自己責任の部分もあるのではないか?』という疑問が自分の中にあったんです。でも、その考えはボランティアでの参加を重ねて、いろいろな人たちと出会う中で変わりました。社会状況や家庭環境など、様々な要因が背景にあるのだと気づいたんです」と久保さん。

インタビューに答える久保裕介さん

株式会社ロジカル常務取締役の久保裕介さん(写真=深澤慎平)

 コロナの影響が広がってからは、列の中に若い人たちの姿が増えていくのも目の当たりにしてきた。30代、40代、時には20代くらいの若い人が来ることもある。

 「ある20代の女性は、就職で上京したのに会社がつぶれて社員寮を追い出されてしまい、『どうしたらいいのか分からない』と相談に来ました。夫婦で食料品を受け取りに来た人もいます。少し前までは普通に生活をされていて、ぱっと見では困窮していることが分からないような人も多い。でも、話を聞いてみると、『もう所持金が数百円しかない』、『野宿しなければならない』という状態なんです」と久保さん。

袋に入った食品を手にするボランティアスタッフの女性

活動には多数のボランティアが参加している(写真=深澤慎平)

 中には、食料品の配付の列に並んだり、相談員に話しかけたりすることにハードルやためらいを感じる人も少なくない。少し離れた場所からようすを見ている人がいれば、久保さんはさりげなく「こんにちは」と声をかけるようにしているという。

 「『困っている』とSOSを出すことは簡単ではないんですよね。話しかけてみると、『実は……』と打ち明けてくれることも多いんですよ」

高層ビル群の下に集う人々

写真=深澤慎平

産直の「予備青果」を支援先へ

 この日、全員に配られた食料品のうち、ミニトマトやバナナなどは、パルシステムの青果・米の物流を担う子会社である株式会社ジーピーエスから提供されたものだ。

 「ジーピーエスでは、2008年のリーマンショックのときから、生活に困窮したかたに農産物や果物を提供する支援をしています。こうした活動は、東日本大震災のときに本格的になって、今では子ども食堂やフードバンクなど数十か所への提供のほか、各地で台風や地震などの災害が起きた際にも支援を行っています」と代表取締役社長の島田朝彰さん。

インタビューに答える島田朝彰さん

株式会社ジーピーエス代表取締役社長の島田朝彰さん(写真=編集部)

 ジーピーエスでは、各地の農家から届いた青果を組合員の注文に応じてセットするのだが、品質不良が出る分などを見越して注文よりも少し多めに青果が納品されている。そのため、どうしても余りが出てしまうのだ。ジーピーエスではそうした「予備青果」を支援先に提供しており、こうした取り組みがフードロスを防ぐことにもつながっている。

ずらりと並ぶかごに積まれた青果

支援先の団体ごとに積まれた青果(写真=ジーピーエス)

 「4月の緊急事態宣言以降は、組合員からの注文が増えて欠品を多く出している状況ですが、それでも品目によっては注文数以上の予備が出てしまいます。そうした青果をニーズに合わせて支援先に毎週届けています。例えば、『新宿ごはんプラス』の場合は、路上生活をされているかたも多いので、調理なしで食べられるバナナとかトマトのような食べやすいものを中心に提供しています」

 路上生活が長期化している人にとっては、新鮮な青果を食べる機会は少ないため、ジーピーエスが提供するミニトマトは好評で、配ったその場ですぐに食べ始める人もいるのだという。

パック入りのミニトマトを手にするスタッフ

路上生活では、新鮮な青果を食べる機会は少ない(写真=深澤慎平)

 「そういう話を聞くと励みになりますよね。支援先への手配を担当している職員も意義を感じながら取り組んでいますし、わたしたちがただお金もうけのために事業をやっているのではないことを、若い職員に伝えるよい機会にもなっています。組合員のかたからも、ぜひ予備青果を支援に使ってほしいという提案をよく頂くんですよ」

 組合員とともに地域の生活課題解決に取り組む生協のグループ会社として、こうした支援に協力する意義は大きいと島田さんは感じている。

 「生活に困っているかたが地域にいて、わたしたちが産直事業をしている中で何かできることがあるのなら、パルシステムグループとして貢献するのは当然だと思っています」

パルシステムのトラックと提供された食品

写真=パルシステム

「コロナ後の社会」を考える

 もともと「新宿ごはんプラス」の活動は、「ごはんをきっかけにして、だれでも相談できる場所を作りたい」という思いから始まったものだ。

 「公的支援があっても適切な情報を得ることができない人や、実際に役所に相談に行ったけれど追い返されたという人もいます。そういう人たちのためにも『新宿ごはんプラス』のような場は必要。食料品を提供することで人が集まりやすくもなります。そうやって、パルシステムをはじめとして、いろいろな団体や個人がそれぞれの持っている力を出し合うことで、必要な支援につなぐことができるのです」と、「新宿ごはんプラス」共同代表の大西さん。

インタビューに答える大西連さん

コロナ禍で浮き彫りになった社会の問題とセーフティネット構築の必要性を訴える大西さん(写真=深澤慎平)

 大西さんは、今コロナの影響によって浮かび上がっている問題は、以前から社会の中にあった問題なのだと話す。

 「日本では経済格差がどんどん広がっています。コロナの影響で可視化される以前から、不安定な雇用や住まいで暮らす人がたくさんいたのです。わたしたちは支援だけでなく貧困問題の発信や政策提言もしてきましたが、コロナ後の社会をどうしていくべきなのか、今本当に考えないといけません。こうしたことが繰り返されないように、住まいの確保や、社会保険や失業給付などのセーフティーネットをもっと確かなものにして、社会の仕組みを整えていくことが必要ではないでしょうか」

取材協力=新宿ごはんプラス 取材・文=中村未絵 写真=深澤慎平 構成=編集部