リモートワークで家事疲れ……献立の悩みを解決する、“ついで調理”
「魚柄さん、ごぶさたしておりました!」
約2年ぶりの再会に、感慨もひとしおといった表情であいさつをしたのは、編集室の高橋。今回より新メンバーに加わった高橋かなも「はじめまして。よろしくお願いします!」と緊張の面持ちで魚柄さんに向き合う。
「やあやあ、お二人。こんにちは。ダブル高橋で登場ですか! 大丈夫。新人、初心者、いつでも大歓迎ですぞ!」と、笑顔で迎え入れてくれた。
「前回からすっかり世の中変わりましたなあ。外出が減り、家にいる時間も多くなったでしょう。この機会を生かして台所術を磨いていましたかな?」
「確かにリモートワークが多くて、食事を作る機会は増えました。でも、あまりに続くので、何だか家事疲れしてしまって」(高橋)
「栄養バランスよく、変化に富んだ献立が理想だけれど、なかなか思いつかないものですね。一度に作り置きしたものを食べ続けたり、麺だけや、一品だけに偏りがちで……」(かな)
と、早速弱音をこぼすことに。
「料理の手間? 献立の悩み? それならこれで解決! 二人のために、用意しておきましたぞ」
話に耳を傾けていた魚柄さん、何やらおいしそうな料理の乗った皿を差し出した。丸型の分割皿には、彩り豊かなおかずがずらり。肉や魚、野菜など栄養バランスもよさそうだ。
「うわあ、おいしそうです!」(高橋)
「こんなに品数もたくさん。手間をかけていただいて……」(かな)
二人が恐縮する中、魚柄さんは涼しげな表情でこう話す。
「いやいや、左の皿の肉じゃがと人参のホットサラダは昨日の夕食のカレーを作る “ついで”に作ったもの。右の皿の豚しゃぶぽん酢とゆでキャベツは今朝、みそ汁を作る “ついで”に作っただけ。手間なんてぜーんぜんかかっていないんですの」
「えっ、カレーを作るついでに、横で肉じゃがも作ったってことですか? 私にはできそうもありません……」(かな)
「僕もみそ汁を作りながら横のコンロで豚しゃぶして、ホットサラダも作るなんて……」(高橋)
困惑する二人に、魚柄さんはニヤリ。
「いやいや、これ全部、一つの料理を作る工程の中で、“ついで”にできちゃうんです。この発想を覚えておけば、しりとりするみたいに、限られた食材からいろんな献立が展開できますぞ!」
「お、教えてください!」(二人)
一度の調理で一緒に作る。「おかずの素」が明日の一品に
「じゃ、あれこれ言う前に、まずやってみましょ」
魚柄さんが言う“ついで調理”を知るべく、早速実演タイムに。まずはコンロに水を張ったなべをかけ、お湯を沸かすところから。
「例えばある日のキッチンでは、カレーを作るためにお湯を沸かしました。でも考えてみてくださいな、このときの調理時間や燃料費を、カレーのためだけに使うのって、ずいぶんもったいないことじゃぁありません?」(魚柄さん)
「え、でも、カレーを作ると決めたのだから、できる料理はカレー、ですよね……」
まだまだ事態がつかめない二人。しかし気づけば魚柄さんは、人参とじゃがいもを大小のサイズに切り分けている。
「その大きな人参は、まさか、カレーの具以外に使うんですか?」(高橋)
「さよう! どうせ、カレー用の具を煮る時間があるのだから、ついでにゆで野菜も作ってしまうんです。これを保存容器に取り分けて、翌日以降のための『おかずの素』に活用する、というわけ。
まるきり違う大きさだとゆでる時間がバラついてしまうけど、野菜の“厚み”さえそろえれば、たとえ長さが異なっても、火の通り時間はほとんど変わりません。ちょっと目からウロコの発見でしょ」
「こんなふうに、調理のプロセスをムダにせず、ちょっと別の料理につながる活用ができれば、可能性は無限大。肉じゃがもどう作ったか、何となく想像できたでしょ。これぞ、ついで調理の真髄ですぞ」(魚柄さん)
ついで料理の手軽さと便利さを目の当たりにした二人は大感激。
「すごい、もっとほかにも実践のワザを知りたいです!」
と、魚柄さんににじり寄る。
「はいはい、じゃあもう一つだけね。今朝もなべにお湯を沸かして、みそ汁を作りましたが、それだけじゃぁ芸がない。キャベツも具と一緒にゆでて、ホットサラダにしましたよ。さらに、同じなべで薄切りの豚肉をしゃぶしゃぶするんでっす」
「あらかじめ保存容器に調味料を入れておいて、引き上げた豚肉を投入! 冷めていくと同時に、肉に味がしみ込んでいくから、食べるときは電子レンジでチンして盛りつけるだけでいいんです。そうそう、このときのみそ汁、キャベツの甘みと豚の脂がいいうまみになって、あったま~る一品になりましたよ」
さらに魚柄さんは、こう続けた。
「献立って、食事作りのたびにイチから考えようとするから難しいんじゃないですか? 一回の調理の中で少しずつ次の準備を進めておけば、次に作るものはだいたい決まってくる。だから献立に悩むことも、食材のムダも減るってもんです!」
“分割皿”を使って、バランスアップへの近道に
そして、このついで調理でできたおかずの素たちを、バランスよく使いきるのに役立つのが、分割皿なのだとか。
「1枚の皿に3つのスペース。どうしたって、いろいろ盛りつけたくなるでしょう、ニクイでしょう~?」
「分かれていると3つの食材や、色合いのバランスも考えたくなりますね」(かな)
「さよう。もちろん、この分割皿は一つの目安です。味付けや、調理のバリエーションさえ変えていけば、おかずの素を使っていつの間にか献立が完成!しているというわけなんです」(魚柄さん)
「最初はこれを見ながらやれば、何だかできそうな気がしてきました!」(高橋)
徐々にイメージが固まってきたようすの二人に、魚柄さんは新品の分割皿を手渡した。
「分割皿は全体が見えるので、自然と食材や彩りのバランスを考えられるようになる。献立の発想を養うためのトレーニングにちょうどいい、『補助輪付き自転車』みたいなものですな。
さっ、お次は二人が実践してみる番です。これを使って1週間、“ついで”を合言葉に、挑戦してみなっさい。きっと発見があるはずですぞ」(魚柄さん)
「やってみます!」(二人)
ついで調理で毎日のごはん作りが軽やかに!
「こんにちは、魚柄さん!」
1週間が経過し、再び魚柄さんの元を訪ねた二人。意気揚々としたそのようすから、成果の程がうかがえる。
「僕たちの実践結果、いかがでしたか?」(高橋)
「やあやあ、二人から送られてきた写真、見ていましたよ。いろんなメニュー、頑張ってましたなあ」
魚柄さんのねぎらいの言葉に表情を緩ませ、
「1週間、大変かなと思ったんですが、やってみると楽しくて!」(かな)
「ついで調理をしておけば、アイデア次第でいろんなメニューに展開できるんですね」(高橋)
と、満足げな表情だ。
「そうそう。せっかくシンプルな下ごしらえにしてあるのだから、いろんな味付けで飽きずに食べるのが楽しみってもんです。じゃ早速、“代表作”の解説をお願いしましょうかな」(魚柄さん)
「僕は教わった“ついでにゆでる”を中心にしたメニューからの展開です。ついでのついでにゆでたら、ポーチドエッグまでできました」
「ゆでたじゃがいもに、一切れ余分に焼いておいた鮭のほぐし身を混ぜてポテトサラダに。あとは、鶏肉をしまう前にパパッと塩とスパイスで味をつけました。以前魚柄さんに教えていただいた『チキン棒』を思い出したんです」(高橋)
「なるほど、さすがのアイデアです。肉や魚、野菜にもついでに下味をつけてしまえば、次に食べるときに悩まなくて済むし、保存性も向上します。放置時間を熟成に転じる、見事なついで調理ですな」(魚柄さん)
「はい、じわじわとひとつずつの学びがつながってくるようで、うれしいです」(高橋)
続いて、「私も自信作ができました!」と次の“作品”の説明へ。
「私は、パスタをゆでるついでに小松菜もゆでておかずの素にしました。ペペロンチーノを作る予定でしたが、小松菜があるなら使おうと、バターで味付けしてパスタの具にしたんです。翌日はおひたしに。おかずの素にすれば、野菜も無理なく食べられますね」(かな)
「これまで『何を食べよう』と困っていたのが、『どうやって食べよう』と、うれしい悩みになりました」
その報告に、魚柄さんはもうワンポイント、こんなアドバイスを。
「同時ゆで、マスターしたようですな! 実はパスタも多めにゆでれば、おかずの素になるってご存じかな?」
「いえ、パスタはゆでたてを食べるもの、というイメージがありました……!」(かな)
「ゆでたらしっかり冷水でしめて、バジルペーストやオイルなどとあえておけば、食感はヘタらないんです。冷水じめはフランス料理や有名料理店でもよく使われる調理法なんですぞ。冷めたままきゅうりと合わせてパスタサラダにしたり、いま一度フライパンで温めてもおいしくいただけるってもんです」(魚柄さん)
「なるほど、次からそうしてみます!」(かな)
家事は連続するもの。素材の組み合わせとアイデアで“献立力”を鍛える
実践を通じて、ついで調理が身についてきた二人。その感想をこんなふうに伝えてくれた。
「同じ食材でも、どんどん変化させられるから、飽きずにいつの間にか食べきれる。その楽しさが魅力でした」(高橋)
「それに残り物を食べているというわびしさが全然ないです。満足感があるのに、調理の手間は続けるほどに減っていく。継続することで、アイデアも増えるし、いいことづくめだなって感じました」(かな)
達成感に満ちた二人のコメントに、魚柄さんは思わず拍手をしながら、
「すばらしい、これぞ“献立力”です!」
と感慨深げに伝えた。
「献立力、ですか……!?」(二人)
「今だけ、今日だけじゃなく、明日やその先のことを考えて段取りをする、一つずつ先へとつなげていく。それがムダのない家事の基本です。食事作りの場面ならそれは、日々の食卓を手間なく楽しくする“献立力”と呼ぶことができるでしょう。
二人とも、いろんな料理に展開させながら、ちゃんと食材を食べきっている。これ、献立を組み立てる力がついてきた、ということなんですぞ」
それを聞いていた二人は、これまでの道のりを振り返る。
「そういえば、キャベツを野菜室から取り出すとき、自然と2食分の展開ぐらいは思い描いていた気がします」(かな)
「そうか、次の献立まで何となく思い描いているから、一回ごとの負担が軽くなるんですね」(高橋)
「そのとおり。これ、続けるほどに、おかずの素が増えていくんです。うちなんて、常時8~10種類ぐらいは控えているかな。それらを眺めて、食べたいものを分割皿にパパッと盛るだけ。お子様ランチみたいにね」(魚柄さん)
話を聞いていた高橋は、改めて分割皿を眺めながらこう話す。
「確かに、分割皿の食事には、そういうワクワク感がありました。栄養バランスに、見た目の華やかさ。大人の分割皿ごはんにも、利点がいっぱいありそうです」
時短、省力化だけじゃない。ついで調理で社会課題も解決!?
魚柄さんは、「あと一つ、忘れちゃいけないのは何だと思います?」と問いかけ、こんな話を続けた。
「それは、ムダなく食べきり、食品ロスをなくすってこと。分割皿ごはんでは、自分好みに楽しく食べられる権利がある分、食べきる責任も、ちゃんと果たしたいものですから」
いつしか冷蔵庫で食品を腐らせるようになってしまった私たちの日常を脱し、食べきる責任を果たすということ。それは魚柄さんが長年伝え続けてきた核心であり、あらゆる台所術に通じるテーマでもある。
「ただ念仏をとなえるように『食べ残しはダメ』『食品ロスをゼロに』と言ってもお説教にしか聞こえないし、何も始まらないでしょ。家事がラクになる、一つの食材をいろんな味で楽しめる。そんなうれしいお得感こそ、実践を継続していくためには、必要なんじゃありまっせん?」(魚柄さん)
「そうですね。楽しいからこそ、続けたくなります」(かな)
「達成感があると、もっと探求したくなるんですよね」(高橋)
そんな二人を見た魚柄さんは、うれしそうな表情でこう続けた。
「その意気です! ついで調理のアイデア、もっと広げてみてください」
「はい!」(二人)