今、「大衆魚」がとれない
食卓でおなじみの魚だったアジ、サバ、サケ、サンマ……。いわゆる「大衆魚」と呼ばれる魚の漁獲が減っている。国内の水産物の生産量は、ピークが1984年の1,282万トン。それが2024年には364万トンにまで減少している。

生産量は、ピーク時以降30~40年の間に1/3ほどにまで減少した(水産庁の令和7年度「水産白書」をもとに編集部でグラフを作成)
かつて家計を助ける存在でもあった大衆魚。流通する量が少なくなれば、価格は上がる。最近は手に取りやすい価格といえなくなっていることは、だれもが日々実感しているのではないだろうか。
大きな要因のひとつに、気候変動による海水温の上昇がある。日本近海の水温は、この100年の間に約1.3℃上昇しているという注釈。
その1.3℃が海の中に及ぼす影響は大きい。魚たちが生息する分布可能域の北上、海に出て生まれた川に戻ってくるサケのような魚の「回遊」と呼ばれる習性の阻害、海藻が枯れて「磯焼け」が広がることによる海の砂漠化……。
自然以外の要因もある。沿岸域の開発によって、海の生態系を育む藻場や干潟が減少していること、外国の大型船による大量の漁獲、近年では燃油代の高騰によって漁に出ること自体が厳しいことなど、さまざまな要因が絡み合い、水産業の苦しい状況が続いている。

海の中で起きていることはなかなか見えづらいが、気候変動によって確実に大きな影響が表れている(写真=豊島正直)
とれた魚をいかに活かすか
水産物の宝庫である北海道でも、不漁が続く。道東・野付(のつけ)半島に位置する野付漁業協同組合は、その豊かな河川や湾でとれる鮭やいくら、ほたてを長年消費者に届けてきた。
「野付の2025年度の漁獲は、前年度比8割減だったのですが……。2026年度はもっと減りそうです。親の鮭がないということは、いくらもありません。本当に厳しい状況です」
そう話すのは、北海道漁業協同組合連合会(以下、北海道ぎょれん)の山野寺健一さんだ。勤めて30年、漁獲量の減少に加えて、水産業の担い手も減り続けている。北海道が誇る水産資源をいかに守るかということに苦心する日々だ。

2011年ごろの北海道・野付漁業協同組合の秋鮭漁のようす。当時は安定して鮭を漁獲していた(写真=編集部)
「いない魚は、いくら頑張ってもとれない。漁業というのは、まさに自然の恵みをいただくということです。そんななかでとれたものを、やっぱりきちんと商品にしてみなさんに届けたいんです」
いない魚ではなく、いる魚を活かしていく。そこで取り組んでいるのが「未利用魚・低利用魚」の商品開発だ。耳にしたことがある人も多いかもしれないが、いったいどんな魚のことを指すのだろう。
「その名のとおり、全国的にあまり利用されていない魚のことです。ある地域では利用されているが、ある地域では利用されていないといった、全国的にみると利用が少ない魚種を、私たちは『未利用魚』や『低利用魚』と呼んでいます。例えば北海道内ではよく食べられている魚でも、道外では知られていない魚というのが結構あるんですよ」
「大衆魚」と聞くと、とくに関東の人の多くはアジやサバ、イワシをイメージするかもしれない。しかし北海道では、焼き魚といえばホッケ。今でこそ全国的に、ごはんの友や居酒屋のおつまみとしておなじみの魚となったが、以前は道外ではそこまでメジャーな魚ではなかった。

今ではおなじみの魚、ホッケ。「大衆魚」として知れ渡ったのは、そんなに昔の話ではない(写真=豊島正直)
「30年前に私が北海道ぎょれんに入ったときが、道産の真ホッケを関東に広げ始めていた頃でした。当時は漁獲量も多く価格も安価で、だれもが手に取りやすかったため、全国に流通させることができた。それで、大衆魚として広く認知される魚になったんです」
同様に、数の子の原料であるニシンは、北海道では春を告げる風物詩だ。
「ニシンは名前は認知されており、数の子も年末などによく食べていただいていると思いますが、親の身のイメージは『身欠きにしん』やそばにのっている甘露煮くらいのものではないでしょうか。なかなか道外では利用されていませんでしたが、地元では昔から『ぬかにしん』や開きで食べる習慣があるんですよ」
過去には国内での漁獲量が激減し、海外からの輸入ものが主体となっていたところ、近年は北海道で資源が回復してきているという。稚内の西側にある礼文島(れぶんとう)や、鮭が減る野付の海でも、ニシンが増えているそうだ。そこで、あまりニシンを食べる文化がない関東圏でも消費を広げていこうと、生協パルシステムと水産産直提携を結んだ、礼文島にある船泊(ふなどまり)漁業協同組合の原料を使った商品開発が進むことになった。

パルシステムの『礼文島船泊の産直・にしん開き』。「関東では、パルシステムの組合員さんがいちばんニシンを食べてくれていますよ」と山野寺さん(写真=佐藤朗)
「やはり継続して扱っていただいていることで、徐々においしさが認知されつつあると感じています。パルシステムの組合員さんのなかで、ニシンが少しは大衆魚に近づいているとうれしいですね。数の子を持つ前のニシンは脂のりがよく、数の子を取り出したニシンはあっさりとして、どちらも非常においしいので、ぜひ今後もいろんな味わいを知っていただけるよう、商品づくりをしていきたいと思っています。
さて、では『未利用魚・低利用魚』は?というと、そのひとつが柳の舞(ヤナギノマイ)という魚なんですが……。知っていますか?(笑)」
おいしい魚にはトゲがある?
柳の舞。優雅な名前のこの魚は、主に北海道や東北、新潟県などでとれる白身魚。道内でもホッケほどメジャーではないものの、鮮魚店に行くと並んでいることが多いそうだ。
この柳の舞が、船泊漁業協同組合でほっけとともによく水揚げされるのだという。たくさんあるなら、どんどん商品化すればいいのでは? ……と、いうわけにもいかないところに、未利用・低利用になってしまう所以がある。

水揚げされた柳の舞。背びれのところにトゲがある(写真提供=北海道ぎょれん)
「柳の舞はまず、トゲがとっても多いんです。『刺し網(さしあみ)漁』というのは魚の通り道に網を仕掛け、絡ませてとるんですが、その網の細い糸にトゲがとにかく絡まって、魚を傷つけないように外すのが大変。これはもう熟練の技が必要です。網が破けてだめになってしまうこともあります。

水揚げした網から、ひとつずつ魚を外していく。こうした地道な作業も漁業者の仕事だ(写真=豊島正直)
そんな魚だから、やっぱり加工がしにくい。サイズ感が小さく、ばらつきもあるので機械に入れられず、人の手でやらなきゃということになる。そこでもまた、トゲや骨との戦いです。今はどこも人手が足りないなかで手作業でやってもらうとなると、魚自体は安くても、加工代、人件費がかかってくる。結局みなさんの食卓に届くまでに、ものすごく高くなってしまうんです。なのでこれまで基本的には、道内の鮮魚店への流通にとどまっていました」
柳の舞から生まれる好循環
味はおいしい。それでも、漁師にも、加工メーカーにも敬遠されてしまう扱いにくい魚は、広く市場に出回ることが難しい。
しかし、それでも柳の舞の商品開発を進めよう、となったのは、やはり近年の不漁の問題がある。大衆魚の漁獲が不安定ななか、網にかかった魚を無駄にせず、一匹でも多く価値をつけることは、今厳しい状況にある水産業を助けることになる。

漁をすると、目当ての魚種以外の魚も網にかかってくるのは当然のことだ(写真=豊島正直)
「これだけ燃油代も資材代も上がっているうえ、魚をとりに行くにも水揚げするにも人手がかかります。今まで鮮魚で出して一匹何十円かだったものが、加工品として需要が高まることによって上乗せがあり、少なくとも漁に行って採算が取れる形になってくれれば、漁師はみんな積極的に取りに行く。
そうすれば水産品の安定的な供給ができるという好循環が生まれ、みなさんの口に入る国産の魚が増えるということにもつながりますよね。そういった形になれば、非常にありがたいなと思っています」
今回の柳の舞に関して、加工の手間の多さから、請け負ってくれるメーカーを探すのが大変だったそうだ。しかし、ホッケをメインで加工していた稚内の会社が、ホッケの水揚げが不足していることから、「やってみようか」と手を挙げてくれたという。

機械では加工できない柳の舞を、人の手で1匹ずつ開きにしていく(写真提供=北海道ぎょれん)
原料の魚がないと、工場も、そこで働く人たちも稼働することができない。だから、一匹でも多く価値をつけたい。それは、漁師も加工メーカーも、できた商品を販売する漁業組合も、みんなが同じ気持ちだ。
どんな料理なら食べてもらえるか?
そして、それをしっかりと食卓に届けるためにも試行錯誤が続く。
「やはり、骨がない魚が求められる時代になっています。原料を海外の工場に持って行って、骨を抜いてまた日本に持って帰ってくるといったこともやっていますしね。魚食離れとはいわれていますが、お寿司は変わらず人気がありますから。
柳の舞も、地元ではカラッと揚げて中華あんみたいなものをかけて食べられることが多いんですよ。本当はミールキットなどにできればいいのですが、骨抜きや衣付けの加工まで考えると、なかなかいい価格帯に収まらない。
商品化にあたって、煮付けやムニエルなどいろいろ検討した結果、まずは味や調理方法が想像しやすい干物と西京漬けでやってみようということになりました」

干物にしてうまみを凝縮する(写真提供=北海道ぎょれん)

さまざまなハードルを乗り越えて、『礼文島船泊の産直・柳の舞開き干し』としてパルシステムで商品化。白身でも脂ののりがよく、淡泊ななかにうまみがある(写真=豊島正直)
そのままでは魚がなかなか売れない時代。なじみがない人が多い「未利用魚・低利用魚」を積極的に手にとってもらうために、ひと目でわかる食べやすさ、味わいの訴求というのが大切だ。
「長年水産業に携わってきた立場からいうと、骨がある、魚らしい姿の魚も時々は食べていただけたらうれしいですよ。でも今はとにかく、魚をどんどん食べてほしい」
柳の舞に続け! 新進気鋭の未利用魚・低利用魚たち
ちなみに、柳の舞以外にも、商品化が待たれる未利用・低利用の魚はまだまだたくさんいる。
ひとつは、北海道で「鍋壊し」と呼ばれる、「カジカ」という魚。おいしすぎてみんなが鍋を突き壊す、という意味の愛称どおり、汁物や鍋にしたときの出汁が絶品だそうだ。しかし悩ましいのが、特徴である大きな頭は食べることができないため、食べられる部分が少ないこと。しかも頭をとる加工が、柳の舞のトゲよりもさらに大変というから道のりは険しい。

柳の舞よりも加工に手間がかかる「カジカ」(写真提供=北海道ぎょれん)
もうひとつは「マフグ」。もともと北海道でとれてはいたものの、道内には加工に慣れている工場が少ないため山口県に運んでいたところ、漁獲量がここ数年で急増。山口県でも飽和してしまい、どうしたらよいかというのが漁業者の悩みの種になっている。
マフグは食べられる部分が3割ほどで、7割が廃棄となってしまう。その廃棄物を処理できる施設は北海道では限られており、加工処理する経費もかさむ。大量のマフグを安定して加工するためには、人員や設備を含めた体制づくりが不可欠になる。

知名度はあるものの、食卓ではなかなかなじみが薄いマフグ(写真提供=北海道ぎょれん)
課題は山積みだが、漁獲量が確保できるこうした魚の活用の道を切り拓くことが、全国各地の水産産地で目下の命題となっている。
一匹の魚に、多くの人がかかわっている
そんななか、国内の漁獲量が減っているにもかかわらず、輸出される量は増えているという現状がある。
「ホタテなどもそうですが、海外では、魚介はヘルシーかつ日本産は天然物が多いということですごく需要が高まっていて、為替の影響もありどんどん外国に買われています。いっぽうで国内では、輸入したノルウェー産のサーモンやサバを食べているという状況。このままでは本当に、日本で国内産の水産物を食べられなくなっていってしまいます」
周りを海に囲まれ、昔から魚に親しんできた日本。その文化や産業を守るためにも、「国内でとれたものを国内できちんと消費していくこと」の必要性を改めて山野寺さんは問いかける。そして、そんな状況だからこそ、名前を聞いたことのない「未利用魚・低利用魚」も、一度手にとって食べてみてほしい、という思いがある。
「その土地ではよく食べられている魚であることが多いので、味はお墨付きです。旅行に行って地元ならではの食材を食べるつもりで、新しい味との出会いを楽しんでいただけたらうれしいですね。
魚一匹が漁師さん、加工屋さん、いろんな人や場所につながっています。この魚はどこのものなんだろう、夏の猛暑が海にどんな影響を与えているんだろう、そんなことを考えながら食材を選んだり、食べたりしていただくと、国内産業も食卓も、もっともっと豊かになっていくんじゃないでしょうか」

海へ出て漁獲する人、加工する人、たくさんの人のリレーで食卓に魚が届けられている。写真は船泊漁業協同組合の大石康雄組合長(写真=豊島正直)