「手鏡」を手放してごらんなさい
――「ルッキズム」(人の価値や能力を外見や容姿で判断し、優遇したり差別すること)という言葉があるように、人はとかく容姿に惑わされがちです。71年という長きにわたって多くの女性に触れてきた小林さんは、人の魅力とはどこにあるとお考えですか?
小林照子(以下、小林) 昨今は「顔さえきれいならいい」という考え方をする人もいますね。
「自分の顔なんか嫌い」「違う人の顔になりたい」と美容整形外科に駆け込めば、確かに顔は変えてもらえるでしょう。
でも、私はそうして「つくられた顔」を魅力的だとは思えません。
せっかく知的な顔をしているのに、ボキャブラリー(語彙)が貧困な人が果たして魅力的でしょうか? どんなにきれいな顔になったとしても、「あなたの中身はどうなの?」と考えてしまいますよね。
人の魅力は、その人のすべてから感じられるもの。いくら初対面できれいな顔だと思われても、すぐに中身とともに「本当の自分」が伝わってしまうものです。
――とはいえ、容姿にコンプレックスを抱き、自分を好きになれないかたも少なくないようです。
小林 私はこれまで、何十万人というかたのお顔に触れてきました。そのうえで思うのは、どのかたにもそれぞれの個性と魅力があるということ。
「この女性はこんなに魅力的なのに、そのことに自分自身でなぜ気づかないのだろう?」と思うこともよくあります。
でも、それは当たり前なのかもしれません。なぜなら、多くの女性は自分の姿を「手鏡」という狭い範囲の中だけで見ているから。そうすると、つい欠点ばかり探してしまうでしょ?
これを「手鏡病」というの。
人は他人を「親しみやすそうだな」とか「仕事ができそうだな」という印象でとらえているものです。しかも、最初からあえて欠点を探そうという目では見ていないので、大抵はプラスの印象でとらえています。
鏡に映るのは「反転した自分の姿」です。でも本来の自分の姿は、反転していない姿、つまり「他人の目に映る姿」なのです。
だから、もし今のあなたが自分の欠点ばかり気になっているなら、一度「手鏡」を手放してごらんなさい。
周りの声に耳を傾けるの。自分が褒められるところをよく見ることです。そこが、あなたの中でいちばん輝いている個性なのだから。

写真=深澤慎平
メイクは、その人をどこにでも連れていける
――確かに、自分で自分を見る目は、ついついネガティブになりがちですね。他人が自分をどう見ているのか、という客観的な目を持つことが大切なのですね。
小林 ただ、「他人が見る自分」と「本当の自分」がズレてしまうこともあります。
私はかつて、「キツネ」というあだ名をつけられたことがありました。
キツネって、ツンとしているシャープなイメージがありますよね。でも、実際の私はもっと朗らかで情が厚いタイプなのよ(笑)。
だから、「キツネ」と呼ばれるのを聞いて、もっと「本当の自分」が表に現れてくるように、まゆ毛の形や口紅の色を変えてみたの。
たったそれだけでも、人は反応しますよ。
「すてきになったね」と言われるかもしれないし、「前のほうがよかった」と言われるかもしれない。でも、そんな小さな冒険を繰り返しているうちに、「私は、他人の目にどう映っているのだろう?」「その私は、本当の私と一致しているだろうか?」ということがだんだん自分自身で分かってくるものです。
――「他人の目に映る自分」と「本当の自分」のほかに、こうありたいという「理想の自分」もあるように思います。そんな「理想の自分」もメイクアップで表現できるのでしょうか?
小林 メイクは、その人をどこにでも連れていけるもの。
でも、そもそも自分自身がどこにいるのか分からないまま、さまよい歩くことはやめたほうがいいわね。
まずは、自分自身を知ること。
それには、やはり「周囲の声に耳を傾けること」。そして、あなたの生まれ持った個性を生かしながら、あなた自身がどこへ行きたいのかを考えることです。
「温かくて話しやすそうな人」「だれからも信頼されそうな人」。あなたがありたい姿は、職業や立場によっても違うでしょう。どこへ向かうのかはあなたの自由。そのうえで、今の自分という土台の上に「ありたい姿」を表現していくことがメイクなのです。
表面的に美人かどうかは、関係ありません。
あなたらしい内面がにじみ出てくるような、自然に調和の取れた美しさに寄せていくことが大切なのです。

写真=深澤慎平
本当のスタートは40代から
――40~50代の女性には、健康だけでなく容姿の衰えを目の当たりにして、自信を失ってしまうかたも少なくないようです。
小林 更年期は女性ホルモンがすーっと引いていくので、多くの女性が体の不調だけでなく、精神的に不安感や孤独感に襲われるものです。
私にもそんな時期はあったんですよ!
「私はこんなにつらいのに、どうしてだれも分かってくれないんだろう」って、きっと言葉も顔もギスギスしていたと思います。
でも、人には年齢とともに「人格」が備わってくる。
皮膚が緩んでくると、若いころより表情が伝わりやすくなります。よい年の取り方をしている女性は、顔に人格がにじみ出てくる。柔和で、気品ある顔つきになってくるんです。
もちろん、ピーンと張った20代の肌は美しいものです。でも、柔らかいシワをつくるよう心掛けて生きていれば、人格が顔に出るという点ではむしろ有利なんです。
美しさの基準は「若いかどうか」では全くないのです。
――年齢を理由に、自分で自分を縛らないことも大切ですね。
小林 私が40代のころ、ふわっとしたヘアスタイルをしていたところ、同年代の女性から「小林さんはすてきでいいですね。私なんて年ですから……」と言われたんです。
だから、「一体だれがあなたのヘアスタイルを決めるのか考えてみて。それは、あなた自身じゃないのかしら」と問いかけました。
彼女は考えたのでしょうね。その後、自分自身を縛っていたものから解放されて、とってもすてきなおしゃれにチャレンジするようになりました。
年齢だけでなく「○○ちゃんのママ」とか「○○さんの奥さん」という役割で自分を縛っているかたもいます。
もちろん、だれしも家族のために生きる時期はあるでしょう。でも、どんなときも「フルネームの自分」を手離さずに持っていてほしいんです。
「私は私の人生を謳歌しているわ」という感覚ですね。自分の中に「フルネームの自分」を保ち続けることは、年齢を重ねるにつれて大切になってくるものですよ。

美容講座では一人ひとりに寄り添い、言葉を交わしながら心と体を紡いでいく(写真=八幡宏)
道が3つに分かれる50代
――この世代は人生の折り返し地点ということもあり、改めて生き方を模索するかたも少なくありません。
小林 50代から先は、道が3つに分かれます。一つは「心身に病を患い落ちていく道」。もう一つは「このまま進んでいく道」。そしてもう一つは「より高みに向かうハイウェイ」。
私はいつも「更年期を過ぎたら再挑戦!」と皆さんにお伝えしています。
なぜなら、更年期を過ぎると「女性ホルモンがなくても生きていける体」にちゃんと変わっていくから。そのチャンスがきたら、ぜひストンとハイウェイに乗ってくださいね。
女性たちはこれまで家庭のため、社会のため、自分のことは後回しにしながら本当に頑張ってきました。
この世代のかたは、経験を積み重ねたからこその「信用」という武器を手に入れています。
人生100年時代といわれる今、40歳ならあと60年、50歳ならあと50年。十分な土台を築き上げた状態から、あと50〜60年も人生を楽しめる。むしろ、ここからが本番です!
――ハイウェイに乗れずに落ちていく人、というのも気になります。
小林 落ちていくのは、「だれも私のことを気にかけてくれない」「私は人のために我慢ばかりさせられている」という気持ちをため込んでいるかたです。
人は我慢していると口角に力を入れるので、口角が次第に下がってきます。
そうすると、いかにも不平不満ばかり言いそうな口元になってしまう。さらに、怒りの感情はみけんに深い縦ジワをつくってしまう。そうしたよくないシワが表面に現れてしまった途端に、人は病気やら何やらよくないものを引き寄せてしまう。人間はそういう生き物なのです。
――50代でハイウェイに乗るのか落ちていくのかは、自分次第なのですね。より高みへ向かうためには、何を心掛ければいいのでしょう?
小林 自分を解放して、本来の姿を取り戻していくこと。そのためには、五感を刺激することをおすすめします。
人はだれでも、生きるための素晴らしい五感を必ず持っています。でも、多くの人が長い間、五感を封じ込めたまま暮らしてきてしまった。誰かに「我慢しろ」と言われたわけではないのに、「私なんて……」と自分で自分を抑えてきてしまった。
ぜひ、五感に訴えるものを取り入れて、自分を解放してあげてください。いい香りのするハーブティーを頂いたり、お風呂にアロマオイルを入れて半身浴をしたり。心から癒やされる至福の時間を、自分自身のためにつくってあげてくださいね。

写真=八幡宏
自分で自分に愛情を注ぐ
――世の中にはさまざまな美容法があふれています。おすすめの方法はありますか?
小林 皮膚は28日周期で生まれ変わるので、正しいお手入れを続けていくと必ず変化が表れます。
そのとき化粧品だけに頼るのではなく、体の力を使うことで化粧品の効果を何倍にもアップできることを忘れてはなりません。
私が長年大切にしてきたのは、内側からは食事で取った栄養を細胞まできちんと届け、外側からは基礎化粧品を角質層の隅々にまで届ける二重構造の「温冷美容」。
また、皮膚と脳はつながっているので、愛情を込めて肌に触れていると、それが脳に伝わり、よりよい自分、より美しい自分をつくっていくんです。私が施術のときに「かわいいね」「いつも頑張ってるね」という思いを込めて、お肌に触れさせていただいているのはそのためです。
言うなれば、「美容」というのは、「自分で自分に愛情を注ぐこと」かもしれませんね。
――小林さんの美容法は、自分を愛することがベースにあるのですね。
小林 多くのかたは思春期に芽生えた自己愛を、年齢とともに捨ててしまいます。
自己愛は「自分を大切に思うこと」。それは大切なものだし、いつでも取り戻せるものです。
人間は思い込みの生き物なので、「私なんてダメ」と思っていたら、脳がだまされて、どんどんダメな自分になっていく。そうすると悪いシワができて、ハイウェイとは真逆の道へ落ちてしまう。
だから、まずは「自分を愛そう!」と決めること。
自分を愛せる人は、その何倍も人を愛することができます。自分を愛で満たそうとすることは、人を愛する練習につながるんですよ。その瞬間から、人は美しく、豊かになっていくんです。

写真=深澤慎平
「老後」ではなく、「未来」を生きよう
――小林さんは、現在も現役で飛び回っていらっしゃいますが、70代以降に見つけた楽しみもあるそうですね。
小林 75歳から念願の彫刻を、そして80歳からは絵画を始めました。
88歳ではニューヨーク旅行に行きましたし、これからは日本国内津々浦々にも行きたいと思っています。
若いころにしたくてもできなかったことに挑戦するのは本当に楽しいものです。逆に、長い間趣味としてやってきたことでプロになってみる生き方もきっと楽しいでしょうね。
70代、80代は人に尽くす、人に恩返しをする、人に奉仕する、そんな慈愛を持った生き方が、美しく輝く年齢なのかもしれません。
100歳にもなれば、家庭でも地域でも、もう、そこにいるだけで光り輝く存在です。私もそんな人になれるよう、慈愛の心を持って過ごそうと思っています。
そう考えると、これからが楽しくなってくるでしょ?(笑) 皆さん、よく「老後」という言葉を悲壮感を持って使われますが、年齢を重ねた先にあるのは楽しみに満ちた、希望ある「未来」なの。私は、そう思って今日を生きています。
――最後にメッセージをお願いします。
小林 「自分を卑下することが美徳だ」という考え方を持っているなら、今この瞬間に捨て去りましょう。
そして、自分を愛すること、信じること、褒めることから暮らしを始めていきましょう。
ふだん家族のものばかり買っているのだとしたら、自分のために何かちょっとぜいたくなものを買ってみては? 小さなことでも、「自分はだれの犠牲にもなっていない」という安堵感が自分を取り戻すきっかけになります。
「私なんて……」と気持ちが落ちているかたは、ぜひ、美容の世界にいらっしゃい! 美容の力を借りれば、心も体も必ず元気になる。人生、遅すぎることなんて何一つありません。この私が言うのだからうそじゃありません(笑)。