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満開の梅畑で会話する今井真実さんと長谷川壮也さん

写真=写真工房坂本

梅の花咲く小田原の産地へ。料理家・今井真実さんと考える、“梅の今”

  • 食と農
近年、梅の産地は度重なる不作に見舞われ、収穫量も大きく減少している。そんな梅のようすを気にかけ、パルシステムと産直協定を結ぶ産直産地・ジョイファーム小田原(神奈川県)の梅畑を訪ねたのは、今井真実さん。梅の新しい魅力を伝えるレシピを発信する人気料理家だ。若手生産者として農業経営に取り組むジョイファーム小田原の長谷川壮也(たけや)さんと、梅の魅力を語り合いつつ、気候変動の影響や産地の課題を考えた。

※本記事は、2025年3月に行った取材をもとに構成しています。内容や状況は取材当時のものです。

梅しごと歴30年の今井さんと梅畑へ

今井真実(以下、今井) うわあ、めっちゃきれい! 梅の花がいっぱい咲いてて、これはもうお花見ですねえ。

長谷川壮也(以下、長谷川) この畑にあるのは白加賀という梅で、梅酒とか梅シロップによく使われる品種です。咲く時期が遅いので、まだ花があるんですよ。

 

写真は取材時(2025年3月中旬)のもの(写真=写真工房坂本)

今井 ここは長谷川さんたちが栽培されている梅畑ですか?

長谷川 そうですね。この地域には高齢になって梅畑を手放す人も多いのですが、それをおやじ(※ジョイファーム小田原の前代表・長谷川功さん)がどんどん引き受けたものだから、手が回りきらないくらい梅畑があるんですよ。でも、放っておいたら、あっという間に畑は荒れるし、枝の形が変わって、不要な枝を間引く剪定が大変になってしまうんです。

写真=写真工房坂本

今井 私、昔から梅がすごい好きで。もう30年くらい梅しごとをしているんです。親戚が湯河原あたりにいて、家にある梅の木から取れた実をいつも送ってきてくれていました。そういうこともあって、小学生くらいから梅しごとを始めたんです。

長谷川 30年って長い! じゃあ、この辺りには縁がありますね。

今井 3歳くらいかな、祖母の家に泊まったときに梅干しを食べすぎて問題になったこともありました。「止めるとすごい泣くから、食べさせているんだけどいいのかしら……」って母に連絡があったみたいで(笑)。そのくらい、梅は作るのも食べるのも両方好きなんです。

ほかの梅の産地には行ったことがあるのですが、小田原は初めて。今日はすごく楽しみにして来ました。

写真=写真工房坂本

異常気象の影響で、栽培が年々難しく

長谷川 小田原市は市のマークが梅の形をしているくらい、戦国時代から梅栽培が盛んな地域で、昔はたくさん梅農家がいたんです。今は農家も高齢化が進み後継者がいないところも多いので、数は減ってきています。

遠くに海を望む梅畑。ジョイファーム小田原があるのは、昔から梅栽培が盛んな地域(写真=写真工房坂本)

今井 ジョイファーム小田原には今、梅農家さんは何人くらいいるのですか?

長谷川 30人くらいですね。おれは今43歳ですが、ちょうど真ん中くらいの世代になるのかな。もっと若手を育てていかないといけないと思っています。

今井 昨年は梅が不作だったそうですね。

長谷川 そうなんです。過去にないような凶作で、西日本では収穫量が6割~7割減のところもあったほど。うちも例年に比べると少ない年でした。原因は夏の猛暑や、花の受粉期の低温など、ひとつではありません。近年の異常気象の影響で、収穫間際まで予想外のことが起こるので、栽培が難しくなっているのを感じます。

梅畑のなかに置かれた、ミツバチの巣箱

梅の花の受粉を助けるミツバチの巣箱。開花のタイミングや気候によっては受粉がうまくいかず、実のなりが悪くなることも。

今井 今年の状況も心配ですが、どうなのでしょうか?

長谷川 今年の1月、2月の気温は、過去の記録と比べると2013年と大体同じくらいなんです。2013年は割といい年だったので、今のところは大丈夫じゃないかなと思っています。でも、まだまだ油断はできません。

実は、一昨年もあまりよくなかったんですよ。やっぱり冬が暖かくて。最近はモモヒメヨコバイという新しい害虫も出てくるようになったので、それも気掛かりです。

今井 モモヒメヨコバイって、バラ科につく虫ですよね。

長谷川 さすが詳しいですね。スモモや梅などにつく害虫ですが、梅の収穫が6月ごろに終わって1か月くらいすると、小さな羽虫のモモヒメヨコバイが梅の木に集まって葉っぱの汁を吸うんです。数が本当にすごくて、近づくと鼻に入ってくるくらいいます。

今井 ええー!?

梅の枝を手に取りながら、今井さんに説明する長谷川さん

写真=写真工房坂本

長谷川 和歌山でも3年前に大発生したそうです。モモヒメヨコバイにやられると、葉っぱが通常よりも早く黄色くなり、早く落葉してしまうこともあります。

梅の実への目立った影響は今のところないんですけど、もしかしたら木が徐々に弱っていくのではないかと心配で。梅農家の先輩たちに聞いても、「そんな虫は初めてで分からない」という感じなので、注意してようすを見ていくしかありません。

今井 気候といい害虫といい、これまでなかったようなことが起きているんですね。

「傷ついた梅も捨てずに使いたい」

長谷川 今井さんは、梅だけのレシピ本を出されているのだとか。

今井 そうなんです。『ときめく梅しごと』という本なのですが、1冊丸ごと梅レシピの本です。

長谷川 (本を見ながら)へええ、すごい! 「梅パクチー」って何だろう? 「梅のハーブオイル漬け」「梅アチャール」、梅干しを使った「トムヤム麺」もある。味の想像がまったくつかないけど面白いですね。

おれの中で梅って「年配の食べ物」みたいなイメージがあったから、おしゃれだしびっくりしました。この「梅ダージリン」って何ですか?

今井さんの著書をひらく長谷川さん

「和」のイメージの強い梅を、自由な発想のレシピで紹介した『今井真実のときめく梅しごと』(左右社)。「完熟梅のスパイス砂糖漬け」「梅アチャール」など、多彩なメニューが並ぶ(写真=写真工房坂本)

今井 生の完熟梅をダージリンの紅茶と砂糖で煮るんですよ。生のままだと、ちょっと梅の渋みがあるじゃないですか、それが紅茶の渋みで中和されて、シロップもおいしくでき上がるんです。

長谷川 こんなに梅にポテンシャルがあるなんて知らなかった。

甘酸っぱい香りがふわりと広がる「梅ダージリン」は、アイスクリームやヨーグルトとの相性抜群(写真=今井裕治)

今井 私が主宰する料理教室でも梅しごとを教えているのですが、梅干しを漬けるときって傷がある梅の実は使わないほうがいいよ、とよく言うじゃないですか。でも、傷がついたり、ちょっとくらい傷んだりした梅も捨てずに使ってほしくて、いろいろ新しいレシピを考えて紹介しています。

長谷川 生産者としては傷がつかないように梅を出荷したいところだけど、傷がついちゃったときにも、ちゃんと救済してもらえるのはありがたいです。

韓国や台湾に学ぶ、梅の楽しみ方

今井 梅ってすごい面白い素材だと思うんですよ。梅しごとをした人だけが味わえる、あの香りのよさとか、梅のかわいさをみんなが知ってくれたら、もっと生の梅が広まるんじゃないかなって思います。長谷川さんは、やっぱり梅を毎日召し上がっているんですか?

長谷川 毎日ではないですけど、疲れたときに食べると元気になりますよね。朝ちょっとシャキッとしたいとき、汗をかいたときは、やっぱり梅干しを食べます。あと二日酔いのときは梅エキス(笑)。

韓国の市場で青梅が売られている様子

今井さんが韓国で見つけた青梅(写真提供=今井真実さん)

今井 海外で梅がどんなふうに使われているのか知りたくて、韓国や台湾に梅のリサーチに行ったこともあるんです。流通の問題で韓国ではつぶれやすい完熟梅はあまり使われていなくて青梅だけなのですが、日本の梅と品種がよく似ていました。

キムチを作るときや、チヂミのタレを作るときなど、韓国では梅シロップをよく使うんですよね。台湾には「梅おにぎり」があるんですけど、日本とは違ってとっても甘い梅で作る。そういう経験も新しいレシピのヒントになっています。

長谷川 いろいろな食べ方がありますね。

今井 梅干しもおいしいですけど、梅干しになると生梅の香りのよさが分からないじゃないですか。だから、あの香りを知ってもらえるレシピも発信していきたいと思っています。生の梅って、とにかく本当にいい香りですよね。

黄色く完熟した梅は、香りも濃厚な甘さに(写真=豊島正直)

長谷川 確かに、あの香りはいいですよね。香りといえば、うちの農園には熟して落ちた梅の品種を香りでかぎ分けられる社員がいるんですよ。普通は実の形を見て判断するんですけど、毎日のように梅と向き合っていると、そこまでいくのかって感心しました。

今井 すごい! それは極めてますね。

梅干しを作るのにおすすめの品種は?

長谷川 梅干しを作るときに、今井さんのおすすめの品種はありますか?

今井 やっぱり南高梅ですね。初心者にも使いやすくて、オールマイティな感じがあります。

長谷川 うちも南高梅を作っていますが、病気になりやすい品種なので、栽培にはけっこう気を遣うんですよ。小田原独自のブランド品種で十郎梅というのがあるんですけど、十郎梅で梅干しを作ったことは?

今井 まだ作ったことはないんです。でも、おいしいって、みんな言いますね。

十郎梅の梅干し

ジョイファーム小田原で漬けている十郎梅の梅干し。果肉が厚く、とろけるような食感 (写真=写真工房坂本)

長谷川 梅干しにいちばん適している品種だと小田原は言い張っているんですけど、本当にいいですよ。おれは東京で暮らしていた時期があるんですが、こっちに帰ってきて十郎梅を久しぶりに食べたらびっくりしましたもん。やっぱりうまいな!って。

十郎梅は皮が薄くて実が肉厚。繊細で果肉のとろける感じが特徴です。ジョイファーム小田原で漬けている十郎梅の梅干しがあるので、せっかくだから食べてみてください。

梅干しを食べる今井さんと長谷川さん

写真=写真工房坂本

今井 うれしい。めっちゃおいしいです! 果肉が軟らかくて、酸味と塩味を引きずらない後味ですね。食べ終わったあと、口の中に甘みを感じます。

長谷川 ご飯もあればよかったんだけど。そういえば、梅干しってご飯以外だと何に合いますか?

今井 パスタにも合いますよ。バターやオリーブオイルを加えてあげるとパンとも相性がいいです。私はにゅうめんに入れて食べることも多いですね。

長谷川 えっ、パンかあ、今度やってみます。

梅を塩とオイルで漬け込んだ「梅のオイル漬け」。果肉を崩してオイルごとバゲットにのせれば、ちょっとしたおつまみに(写真=今井裕治)

手入れから収穫まで、気が抜けない梅の栽培

今井 梅農家さんにとって、栽培でいちばん大変な作業は何でしょうか?

長谷川 やっぱり剪定の技術かなあ。枝の剪定は先輩からやり方を教わるだけでなくて、センスみたいなものも必要なんですよね。

あと、うちでは木の根元にネットを敷いておき、完熟して落ちた実を梅干しにするために収穫するのですが、その作業もなかなか大変ですね。中腰の同じ体勢で拾うので、柔道部の練習みたい。収穫時期は毎日、暑くても雨が降っても総動員でやっています。

梅の剪定作業中のジョイファーム小田原の根尾 岳彦さんと、説明を聞く今井さんと長谷川さん

梅の剪定作業中のジョイファーム小田原の根尾岳彦さん(右)(写真=写真工房坂本)

今井 蚊もいるでしょう?

長谷川 いや、それが最近、夏が暑すぎて蚊がいないんですよ。9月とか10月くらいになって、やっと蚊が出てきます。昔はよくハチにも刺されていたけど、最近はそういうこともないですね。

気候が変わってきているので、梅の収穫時期を読むのもすごく難しくなっています。事前注文をもらっている場合は、約束したお届け時期に合わせて出荷しないといけないのですが、どうしても収穫がずれてしまうときがある。収穫前には事務局のスタッフが一人一人の畑を回って、出荷直前には毎日のように電話で念入りに状況を確認しています。

今井 難しいですね。

長谷川 青梅としての出荷に間に合わなくて完熟してしまった梅も、全部うちでは梅干しにしているんですけど、そこまで手間をかけてももうけが出るかどうか……。自宅の裏で漬けて干してと、基本手作業なので人手が足りないんですよね。

長谷川さんとともに梅の栽培を行う、ジョイファーム小田原の根尾さん(左)、川本凱土さん(右)(写真=写真工房坂本)

嫌々ながら継いだ農業で健康的に

今井 長谷川さんは、農業をやる前は違うお仕事をされていたんですか?

長谷川 そうなんです。大学のときに映像を始めて、卒業後は東京にあるCMやミュージックビデオを制作する会社でしばらく働いていました。

今井 えっ、そうなんですか!? 実は私も大学は映像科で、前は神戸で音楽番組のディレクターをしていました。ちょうど同世代ですし、私が取材していたバンドの映像を長谷川さんが撮られていたかもしれないですね。

長谷川 おお、すごい偶然ですね。じつは、おれは「農業だけは絶対やりたくない」って思っていたんです。映像の仕事がしたかったのもあるけど、「親が敷いたレールには乗らないぞ」みたいな気持ちもあって。でも、おやじが倒れたのを機に戻ってきました。

みかん畑に立つ長谷川功さん

長谷川功さん(写真提供=ジョイファーム小田原)

長谷川 映像の仕事も農家も、どっちもすごく大変なんですよね。映像の仕事は昼夜逆転も当たり前で、食事はコンビニや居酒屋ばかりでした。こっちに戻ってきて最初は嫌々ながら農業をしていたんだけど、太陽が出たら起きて農作業をして、実家でご飯を食って、暗くなったら寝る生活を送っていたら、体力がついてめちゃめちゃ健康になったんですよ。

今井 いいですね。

若い世代の生産者仲間とのつながり

長谷川 自然の中で働くことで人間として大事なものを取り戻したような感覚がありました。今は収穫の喜びも感じるし、一緒に働いているのも楽しいメンバーばかりでいいんですけど、経営を考えると本当にリスキーな仕事だなと思います。

映像の仕事は大変でも、働いた分の給料は一応もらえるじゃないですか。でも、農家はそうとは限らない。昨年のような突然の不作もあるし、農業資材の高騰、人件費の問題や気候変動など、いろいろな課題があります。

でも、ちょっとずつでも課題を解消していって、今のうちに先輩たちからしっかり技術を学び、新規就農者も増やしていけたらなと思っています。

写真=写真工房坂本

今井 ほかの産地の生産者さんと話すような機会もありますか?

長谷川 ジョイファーム小田原の若手生産者を、積極的にほかの果樹産地などに研修に行かせるにしています。その中にはパルシステムの産直産地も多くありますよ。

うちと同じように、経営を世代交代しつつある産地も多くて、農業経営や技術の継承など同じような課題を抱えている。情報交換しながら、農業の将来について話しています。そうやって相談し合える同世代の生産者仲間が各地にいるのはうれしいことですね。

今井 そうなんですね。一昨年、昨年と暖冬による不作が続いたというお話でしたが、生産者として消費者に何か知ってほしいことはあるでしょうか?

長谷川 話が大きくなっちゃうかもしれないけど、農家とか一次産業に就いている人たちは、いちばん自然に近いところで働いている人だと思うんですよね。だから、環境の変化や気候変動の影響のことをだれよりも強く感じている気がします。

今は果樹だけでなく、米や野菜も天候不良などで収穫量が足りなくなることが起きていますよね。こうした状況を農家だけの問題ではなく、「自分ごと」として一緒に考えてもらえたらなとは思います。

「今」に合わせた梅の魅力を発信したい

今井 私もずっと梅干しを作ってきて、環境の変化を感じています。例えば、昔の干し方だと三日三晩ずっと梅を外に出したままにしますが、最近はゲリラ豪雨があるので出しっぱなしにはできないですよね。日ざしの強さも以前とは違ってきています。

長谷川 確かに、そうですね。

今井 梅のことをもっと知ってもらうために、料理家として私にできることが何かあるでしょうか?

長谷川 いやあ、これまでの梅のイメージを変えるようなレシピをたくさん作られて、もう十分できることをやってくださっていると思います。本当に思いもつかないような料理ばかりで、びっくりしました。

満開の梅畑に立つ今井さんと長谷川さん

写真=写真工房坂本

今井 梅しごとがこの先も続けられるように、「今」に合わせてレシピをアップデートしながら、皆さんに梅をもっと気軽に料理で使ってほしいと思って発信しているんです。

今日は、実際に美しい梅畑の景色を見たり、農家さんがどんな思いで作っているのかというお話を聞いたりして、あらためて一粒一粒の梅を大切にしたいなと感じました。

木の上でしっかり完熟させた梅の、あのいい香りをたくさんの人に知ってほしいと思っているのですが、どうしても傷みやすいので一般のかたたちが手に入れるのは難しいんですよね。「これが完熟なんだ!」って、熟した時期にみんなが収穫に行けるファームツアーがあれば、もっと梅の魅力が広がっていいんじゃないかなと思いました。

長谷川 ありがとうございます。一緒に梅の魅力を広めていけたらうれしいです。

今井 いいですね。ぜひ何か一緒にやりましょう!

取材協力=有限会社ジョイファーム小田原 取材・文=中村未絵 写真=写真工房坂本、豊島正直、今井裕治 構成=編集部